きょうだいがいる子どもはアレルギー疾患になりにくい――そんな経験則を裏づけるかもしれない手がかりが、腸内細菌の研究から見つかった。理化学研究所(理研)などの研究チームが、全国規模の出生コホート調査に参加した2歳児903人の便を分析し、そのうち684人については4歳時点の便も調べたところ、年上のきょうだいの数によって腸内細菌の「タイプ」や、健康に関わる代謝物の濃度が異なることが分かった。乳児期だけでなく就学前まで、この関連が続いていたという。
原題(Title): Sibling factors associated with gut microbiota and fecal short-chain fatty acids in preschoolers
著者(Authors): Tanaka Y. ほか
掲載誌(Journal): Pediatric Research(オンライン版、2026年10月14日)
DOI: 10.1038/s41390-026-05478-3
きょうだいの数と腸内細菌の関係
年上のきょうだいがいる子どもでは、アレルギー疾患の発症リスクが低いという疫学的な報告がこれまでにある。その背景として、きょうだいとの接触を通じた微生物への曝露が、免疫系の発達に影響する可能性などが「衛生仮説」として考えられてきた。ただし、これまでの研究の多くは乳児期や3歳未満が対象で、関連が就学前まで続くのか、どんな経路で生じるのかは十分に分かっていなかった。授乳方法や食事、保育施設への通園、抗菌薬の使用など、きょうだい構成と絡み合う要因が多いことも、解明を難しくしてきた。腸内細菌叢は、免疫系の発達や代謝、さらには将来のアレルギー・肥満・自己免疫疾患のリスクにまで関わるとされ、近年の医学研究で特に注目されている領域でもある。
2歳児903人の便から見えた3つのタイプ
研究チームは、千葉・兵庫・高知・宮城・富山の2歳児903人の便を対象に、細菌の種類をDNA解析(16S rRNA遺伝子解析)で調べ、短鎖脂肪酸などの代謝物の濃度もあわせて測定した。短鎖脂肪酸は腸内細菌が食物繊維を分解してつくる物質で、腸のバリア機能や免疫調節に関わるとされる。細菌の構成パターンが似た検体をまとめることで、腸内細菌叢を大きく3つの「タイプ」(エンテロタイプ)に分類した。タイプ1は細菌の多様性と便中プロピオン酸濃度が最も低く、Ruminococcus gnavus群の割合が高いタイプ、タイプ2はFaecalibacterium属が多いタイプ、タイプ3はRuminococcus属が多いタイプだった。2歳時点ではタイプ1が413人(46%)と最多で、4歳時点では684人のうちタイプ2が345人(50%)と最多になった。ただし、この分類はあくまで腸内細菌叢の構成上の違いを示すもので、健康状態の良し悪しや病気のリスクを直接判定するものではない点に注意が必要だ。
きょうだい数と「タイプ1」のオッズ
研究で特に注目されたのは、年上のきょうだいの数と腸内細菌タイプとの関連だ。年上のきょうだいがいない子どもを基準に、タイプ2に対してタイプ1に分類されるオッズを比較すると、2歳時点の調整オッズ比は、きょうだいが1人の場合で0.49、2人以上の場合で0.32だった。684人を追跡した4歳時点でも、1人で0.45、2人以上で0.22と、同様の傾向が続いた。これは、きょうだいが2人以上いる子どもではタイプ1に分類されるオッズが基準群の約3分の1だったことを示す値で、タイプ1になる確率そのものが3分の1という意味ではない点には注意したい。社会経済的な状況や出生時の条件、同居世帯の人数、ペットの有無などを考慮した分析でも、この関連は変わらなかったという。
便中の代謝物にも関連がみられた。2歳時点では複数の短鎖脂肪酸・分岐鎖脂肪酸の濃度が、年上のきょうだいの数と正の相関を示し(酢酸とヘキサン酸を除く)、4歳時点ではプロピオン酸の濃度で同様の関連が確認された。きょうだいの有無や人数という、家庭ごとに大きく異なる要素が、幼児の体内環境にここまではっきり現れていた点は興味深い。
授乳や保育だけでは説明できない変化
きょうだい構成は、授乳のしかたや食事内容、保育施設への通園、抗菌薬の使用とも関係しやすく、これらが腸内細菌の違いを生んでいる可能性も考えられる。そこで研究チームは「媒介分析」という統計手法を使い、きょうだいと腸内環境の関連のうち、これらの要因で説明できる部分がどれだけあるかを調べた。その結果、今回検討した要因だけでは、関連の大部分を説明できなかった。唯一4歳時点では、直近3カ月以内の抗菌薬使用が、関連の一部に関わっている可能性が示された。
ただし、これはきょうだいとの接触そのものが原因だと証明されたことを意味しない。測定されていない要因や、今回の解析では捉えられなかった経路が関わっている可能性がある。なお、乳幼児期の生活環境がその後の健康に影響を及ぼし得るという視点は、理研が報告した幼少期の栄養状態と寿命の関係とも共通している。
アレルギー予防への応用、今後の課題
研究チームは、今回の結果が「きょうだいがいること自体が病気を予防する」と直接示したものではない点を強調している。腸内細菌の違いが、実際にアレルギーなどの発症リスクの低下につながるのかどうかは、今後の検証が必要だ。
年上のきょうだいが2人以上いる子どもは、きょうだいがいない子どもに比べ、多様性の低い腸内細菌タイプに分類されるオッズが2歳時点で約3分の1だった。
研究チームは今後、きょうだいと関連して変化する腸内細菌や代謝物が、アレルギーなどの発症と実際に結びつくのかを調べる方針だという。きょうだいの有無に左右されず、腸内環境と健康の関係を理解するための手がかりとして、今後の検証が注目される。
