タグ: MIND食

  • 【科学】「MIND食」で脳の老化がゆっくりに――12年研究で2.5歳相当の差

    【科学】「MIND食」で脳の老化がゆっくりに――12年研究で2.5歳相当の差

    「脳に良い」とされる食事法は、本当に脳を守っているのかもしれない。米国の成人1,647人を12年間追跡した研究で、「MIND食」と呼ばれる食事パターンを実践している人ほど、記憶や思考を司る脳の領域の萎縮が緩やかだったことが分かった。研究チームはこの差を、脳の老化にして約2.5歳分に相当すると試算している。英国の医学誌「Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry」に発表されたこの研究は、中年期の食生活がその後何十年もかけて脳の老化の仕方を左右しうることを示す、長期データとしては最も説得力のある証拠の一つとなった。

    MIND食とは何か、何を調べたのか

    MIND食とは、地中海食と高血圧予防のためのDASH食を組み合わせた食事パターンで、葉物野菜・ベリー類・ナッツ・全粒穀物・魚・オリーブオイルなど脳に良いとされる食品をよく食べているほど加点され、赤身肉・揚げ物・菓子類・チーズ・バターなどを多く食べると減点される仕組みで0〜15点のスコアがつけられる。今回の研究は浙江大学・ハーバード公衆衛生大学院と、長年続く「フラミンガム心臓研究」の研究チームが、その子世代コホートに参加する1,647人(研究開始時点の平均年齢は約60歳)を対象に行った。

    参加者は1990年代前半から食物摂取頻度調査に回答し、MIND食スコアを算出した(平均はほぼ7点で、15点満点のうち中程度の実践にとどまる人が多かった)。さらに1999年以降、数年おきに脳のMRI検査を受けており、一人あたり平均3回の撮影が行われ、追跡期間は中央値で12.3年に及ぶ。多くの食事と脳に関する研究は1回の食事調査と1回のMRI画像を比較するだけだが、今回は同じ人の脳を10年以上にわたり繰り返し測定することで、萎縮の「速さ」そのものを比較できる点が特徴だ。

    脳の「若さ」に数年分の差

    結果は観察研究としては際立ったものだった。MIND食スコアが3点上がるごとに、記憶や判断、感覚処理を担う脳の灰白質の体積は年間0.279立方センチメートル、萎縮のペースが緩やかだった。これは加齢に伴う体積減少の約20%に相当し、研究チームはこの差を脳の老化にして約2.5歳分に相当すると試算している。

    MIND食スコアが3点高いことは、灰白質の体積で見て脳の老化が約2.5年分遅いことに相当した――日々の食生活と長期的な脳の構造を結びつける、これまでで最も明確な手がかりの一つだ。

    MIND食スコアが高いほど、加齢とともに脳組織が失われる際に広がる「脳室」の拡大も緩やかだった。その差は予想される拡大ペースより約8%小さく、脳の構造の若さにして約1年分に相当するという。なお、参加者全員の脳は追跡期間中に多少なりとも萎縮しており、これは加齢に伴う自然な変化だ。今回分かったのは萎縮が「起きるかどうか」ではなく、「どれくらいの速さで進むか」の違いである。

    MIND食スコアと脳の老化遅延年数を示す棒グラフ
    出典: Chen et al., J Neurol Neurosurg Psychiatry (2026) のデータをもとに作成

    効いた食品、意外だった食品

    MIND食のスコア項目を一つずつ見ていくと、すべての食品が期待通りの結果を示したわけではなかった。ベリー類は脳室の拡大を緩やかにすることと関連し、鶏肉などの家禽類は脳室の拡大・灰白質の萎縮の両方を緩やかにすることと関連していた。研究チームは、ベリー類に豊富な抗酸化物質や、家禽類に含まれる良質なタンパク質が、神経細胞を傷つける酸化ストレスを軽減している可能性を指摘する。

    一方、菓子類や揚げ物のファストフードは、脳室の拡大や、記憶形成に深く関わる海馬の萎縮が速いことと関連していた。研究チームは、炎症や不健康な脂質に加え、糖とタンパク質・脂質が反応してできる「終末糖化産物」と呼ばれる物質が関与している可能性を挙げている。これは体内の組織の老化と関連することが別の研究でも指摘されている化合物だ。

    ただし二つの食品は予想に反する結果となった。MIND食のスコアでは通常加点される全粒穀物は、今回のコホートではいくつかの好ましくない脳の変化と関連し、逆に通常は減点されるチーズは好ましい変化と関連していた。研究チームはこの二つの結果について「予想外」としたうえで、さらなる研究が必要だと述べるにとどめている。

    恩恵が大きかったのは誰か

    MIND食と脳の老化の緩やかさとの関連は、参加者全員に一様に表れたわけではない。関連が最も強かったのは高齢の参加者で、もともと脳の老化が速く進みやすい層ほど、食事による恩恵を受けやすい可能性がある。また、身体をよく動かしている人や肥満でない人でも関連がより強く、食生活が運動などほかの生活習慣と相まって効果を発揮しているとみられる。

    さらに、MIND食に近い食生活を送っていた参加者は、女性や大学卒業者が多く、喫煙者や2型糖尿病・高血圧・心血管疾患を抱える人が少ない傾向もみられた。研究チームはこうした違いを統計的に調整したうえで分析しているが、食生活の質が他の健康習慣とまとまって現れやすいことがうかがえる。

    この研究で分かること、分からないこと

    今回の研究は観察研究であるため、MIND食そのものが脳の老化を遅らせる「原因」だと証明するものではない。健康的な食生活を送る人は、運動習慣や学歴、持病の有無など他の面でも違いがある場合が多く、測定された差の一部は食事以外の要因を反映している可能性がある。また食事データは1990年代の質問票への回答に基づいており記憶違いなどの影響を受けやすいうえ、最初のMRI撮影時点で軽度の認知機能低下があった可能性を完全には排除できず、その後20年間の食生活の変化も追跡できていない。

    参加者の人種構成も白人に大きく偏っており、米マサチューセッツ州の一つのコホートから得られたデータであるため、他の集団にどこまで当てはまるかは不明だ。それでも研究チームは、今回の結果は「MIND食が脳に良い食事パターンである可能性を裏付けるものだ」と結論づけている。脳の老化は食事だけで決まるわけではなく、アルツハイマー病の遺伝子APOE4が脳の血管を線維化させるという研究など、遺伝的・血管的な要因が日々の生活習慣と絡み合っていることを示す報告も相次いでいる。それでも、中年期の食生活を長期的な脳の健康への投資として捉える根拠は、臨床試験による因果関係の確定を待たずとも、着実に積み上がりつつある。

    Xsciens編集部の読み解き

    この研究の強みは、同じ人の脳を10年以上にわたり繰り返し撮影し、萎縮の「速さ」そのものを比べた点にあります。

    • 「2.5歳分」は試算。MIND食スコアが3点高いと灰白質の萎縮が年間0.279立方センチメートル緩やかで、これを研究チームが脳の老化にして約2.5歳分と換算しています。実際に脳年齢が2.5歳若返るという測定値ではありません。
    • 個別の食品ではなく全体の関連として読む。項目別では、全粒穀物が好ましくない変化と、チーズが好ましい変化と関連するなど、予想と逆の結果もありました。研究チームも「予想外」とするにとどめており、特定の食品の効果を断定できる結果ではありません。
    • 観察研究の限界。食事データは1990年代の質問票への回答で、参加者は白人に偏った米国の1つのコホートです。食事の質は運動や学歴、持病の有無などと一緒に現れやすく、統計的な調整をしても、食事そのものの効果とは言い切れません。

    この読み解きの参考: BMJ Group のプレスリリース、論文(Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry, PMC)

    出典: BMJ Group プレスリリース、Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry (PMC)

    関連記事