タグ: 生命探査

  • 【科学】土星の衛星エンケラドス、噴き出す氷は海水の”そのままの縮図”ではなかった――生命探査の読み解き方を左右する発見

    土星の衛星エンケラドスでは、地下の海から噴き出した水が、宇宙空間へ飛び出すまでの間に”化学的な仕分け”を受けている可能性がある。ベルリン自由大学と東京科学大学などの国際研究チームが、探査機カッシーニが観測した氷の粒のデータと室内実験を照らし合わせ、その仕組みを提案した。噴き出す氷の一粒一粒は、必ずしも海水をそのまま縮小したものではないという今回の結果は、今後エンケラドスへ生命の痕跡を探しに行く探査機が、観測データをどう読み解くべきかに影響しそうだ。

    「凍る速さ」が塩の運命を決める

    研究チームは、エンケラドスの海水を模した水滴を使った室内実験を行った。直径およそ200マイクロメートルの水滴を、1分間に10ケルビン以下というゆっくりした速度で冷やすと、塩化ナトリウムや炭酸塩、リン酸塩などの成分が一様に混ざらず、それぞれ別の領域に分かれて濃縮されることが分かった。急速に冷やした場合は、これほど顕著な偏りは見られなかったという。

    カッシーニが見た961個の”バラバラな”氷の粒

    地下でゆっくり凍って成分が分かれた水滴は、その後どうなるのか。研究チームは、水滴が狭い噴出孔を上昇する過程で加速し(モデル上ではおよそ時速1000キロに達するとされる)、氷の壁などにぶつかって砕けるという形成シナリオを提案している。2004年から2017年にかけて土星を周回した探査機カッシーニの宇宙塵分析器(CDA)は、探査期間中に採取した塩に富む氷の粒961個分の質量スペクトルを記録しており、ナトリウム塩が多いもの、炭酸塩が多いものなど粒ごとに組成が大きく異なっていた。今回のモデルは、この「同じ海から来たはずなのに粒ごとにバラバラ」という謎をうまく説明できるという。

    「海の成分がそれぞれ分離し、同時に個々の氷の粒に濃縮されている」――フランク・ポストベルク教授(ベルリン自由大学)
    エンケラドスの氷粒形成モデルの模式図
    出典: Freie Universität Berlin / 東京科学大学の発表データをもとに作成(氷粒形成の提案モデル)

    生命探査の”読み解き方”を変えるかもしれない発見

    この結果が示すのは、氷の一粒一粒が必ずしも海全体の成分をそのまま表しているわけではない、ということだ。将来、NASAが検討する探査機構想「オービランダー」のように、氷の粒を採取して生命の痕跡を探すミッションが実現した場合、個々の粒の組成の違いを踏まえて分析する必要が出てきそうだ。研究チームは、有機物など生命に関連しうる物質についても同様の濃縮が起きる可能性があるとみており、実証にはさらなる検証が必要としている。

    エンケラドスは、太陽系の中でも生命が存在する可能性が特に注目されてきた天体の一つ。氷の粒の”生い立ち”を踏まえた読み解きは、今後の探査計画にとって無視できない論点になりそうだ。

    出典: Freie Universität Berlin プレスリリース、Science Advances (DOI: 10.1126/sciadv.aee7256)

    論文情報:Postberg, F., Zou, Z., Sekine, Y., Koga, M., Schmidt, J., Fox-Powell, M., Klenner, F., Hillier, J. K., Khawaja, N., Kadono, T., Çakar, M., Kempf, S., Srama, R., “Cassini CDA observes compositional segregation of Enceladus’ ice grains from slow freezing and fragmentation of oceanic spray”, Science Advances (2026), DOI: 10.1126/sciadv.aee7256

    関連記事