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  • 【科学】ハリケーン「ポロ」を強めたのは地球温暖化――エルニーニョより影響大、最新分析

    【科学】ハリケーン「ポロ」を強めたのは地球温暖化――エルニーニョより影響大、最新分析

    2026年9月、東太平洋で記録的な勢力に発達したハリケーン「ポロ」――東太平洋で観測された中でも最強・最長級のカテゴリー5ハリケーンの一つとなった――について、当初は記録的に強いエルニーニョ現象が主な原因だと考えられていた。しかし10月15日に発表された緊急分析の結果、ポロをこれほどの勢力に押し上げた海洋・大気の条件には、エルニーニョよりも人為的な地球温暖化のほうが大きく影響していたことが分かった。

    この違いが重要なのは、エルニーニョが一時的な気候パターンであるのに対し、人為的な温暖化は地球全体の長期的な気温の「底上げ」を続けている点にある。つまり、極端に強いハリケーンを生み出しうる条件は、たとえエルニーニョが発生していない年であっても、今後さらに起きやすくなっていく可能性があるということだ。

    原論文情報 / Original Paper
    原題(Title): Effect of climate change at least as large as El Niño in strengthening Hurricane Polo
    著者(Authors): Friederike Otto ほか(World Weather Attribution/Climate Central)
    掲載誌(Journal): World Weather Attribution 緊急分析レポート(インペリアル・カレッジ・ロンドン グランサム研究所、査読前)
    DOI: 10.25560/144926

    記録的な嵐の内側

    ハリケーン「ポロ」は2026年9月下旬、東太平洋で爆発的に発達し、最大風速はわずか24時間でおよそ90ノット(時速約167キロ)上昇した。米国立ハリケーンセンター(NHC)はこの発達ぶりを「実に驚異的」と評した。ポロは最終的に時速約265キロ(165マイル)、カテゴリー5の勢力に達し、AP通信はこれを太平洋で記録されたカテゴリー5ハリケーンとしては最長の持続記録だったと伝えている。その後ポロはメキシコのバハ・カリフォルニア・スル州に上陸し、ソノラ州へと進んだ。WWAの分析が引用する現地報道によれば、この際の洪水でハリスコ州とソノラ州で少なくとも5人が死亡し、米ニューメキシコ州ではダム決壊のおそれから約1,000人が避難した。

    嵐が弱まるとすぐに、災害発生から数日以内に極端気象を分析することで知られる国際科学者ネットワーク「World Weather Attribution(WWA)」が、非営利団体Climate Centralと共同で、ポロの勢力のうちどれだけが数十年にわたる海洋温暖化によるもので、どれだけが今年の強いエルニーニョによるものかを切り分ける分析に着手した。研究チームにはメキシコ、米国、英国、アイルランド、オランダを拠点とする研究者が参加し、インペリアル・カレッジ・ロンドン、オランダ王立気象研究所(KNMI)、赤十字・赤新月社気候センターが協力した。

    3つの指標で見る影響度

    2つの要因を切り分けるため、研究チームは主に「ポテンシャル強度」と呼ばれる指標を用いた。これは海面水温・気温・湿度から、ある海域で嵐が理論上どこまで強くなりうるかを推定する熱力学的な指標で、実際の嵐が到達する風速そのものを予測するものではない(実際の強度には風のシア(鉛直方向の風向・風速差)や嵐の構造なども影響する)。研究チームは、実際に温暖化が進んだ世界でのポテンシャル強度を、人為的な温暖化がなかったと仮定した世界、および今年のエルニーニョがなかったと仮定した世界のそれぞれと比較した。

    地球温暖化とエルニーニョがハリケーン「ポロ」の強度に与えた影響を比較した棒グラフ
    出典: World Weather Attribution (2026) のデータをもとに作成

    結果はどの指標でも同じ方向を示した。ポロのような極端なポテンシャル強度につながる条件は、温暖化がない世界と比べて現在の気候では約23倍起きやすく(およそ115年に1度の事象)、今年のエルニーニョによる影響は平常時と比べて約14倍(およそ70年に1度)だった。ポテンシャル強度そのものは、温暖化でおよそ秒速5メートル、エルニーニョでおよそ秒速4.2メートル上昇したと推定される。これとは別に、ポロの実際の最大風速への影響としては、温暖化によって約秒速2.7メートル(時速約6マイル)の上昇があったという。ポロが通過した海域の水温も別途評価されており、産業革命前と比べて約1.4度高く、これほどの高温は温暖化によっておよそ100〜200倍起きやすくなっていた。

    「数マイル」の重み

    風速のわずかな上昇は大したことがないように聞こえるかもしれないが、物理的には決して小さな違いではない。風が運ぶ運動エネルギーはおおむね風速の3乗に比例して増えるため、風速のわずかな上昇が、建物や海岸線の地形がどう被害に影響するかを別にしても、嵐が及ぼす力の不釣り合いに大きな増加につながりうる。こうした非線形性こそ、ハリケーン研究者たちが風速のわずかな増分にこだわる理由であり、研究者らは、ポロが持っていたこの温暖化由来の上乗せ分が、より人口の密集した海岸線を襲っていた場合には、メキシコの比較的人口の少ない地域を襲った今回よりもはるかに大きな被害をもたらしていた可能性があると指摘している。

    エルニーニョは去るが、温暖化は去らない

    「エルニーニョは来ては去っていくが、気候変動は悪化し続けるだけだ」

    WWAのフリーデリケ・オットー氏によるこの言葉は、エルニーニョ自体の影響も大きかったにもかかわらず、研究チームが今回の結果を重要だと考える理由を言い表している。エルニーニョは太平洋の海水温が一時的に変動する自然現象で、通常は数カ月から1年程度、あるいはそれ以上続いたのち収まる。Climate Centralのダニエル・ギルフォード氏は、この2つの要因を「信号機とアクセル」になぞらえている――一部の地域ではエルニーニョが嵐を引き裂くような上空の風のシアを弱め、いわば信号を青に変える一方、温められた海水は嵐が発達し始めた際の追加の熱と水蒸気という「燃料」を供給する、というわけだ。どちらの要因も嵐の発達を保証するものではないが、信号はエルニーニョが収まればいずれ赤に戻る。一方、気候システムに蓄積され続ける熱と結びついた長期的な温暖化の傾向は、そのようにリセットされることはない。

    この分析で分かること・分からないこと

    今回の分析はまだ査読を経ていない。これはWWAの緊急分析に共通する特徴で、災害発生から数カ月ではなく数日以内に結果を公表するために同グループが受け入れているトレードオフだ。研究チームはポロの極端な降雨量への温暖化の影響についても定量化を試みたが、利用可能な気候モデルではこの地域の過去の降雨傾向を十分な精度で再現できなかったため、無理に結論を出さずこの問いを保留とした。

    これとは別に、AP通信の報道によれば、研究に参加していない複数のハリケーン研究者――ジェフ・マスターズ氏、マイケル・マン氏、カール・シュレック氏ら――は、ポロへの気候変動の影響は過小評価されている可能性があると指摘する。根拠はギルフォード氏による2024年の別の研究で、大西洋の一部のハリケーンで気候変動が最大時速16マイルの風速上昇をもたらしたとされた結果だ。今回の共著者でもあるギルフォード氏はAP通信に対し、今回の分析は意図的に保守的な見積もりだとの見方を示している。いずれにせよ研究チームが強調するのは、今回の結果はこの特定の嵐について温暖化が極端な条件の起きる確率を高めたことを示すものであり、今後のすべてのハリケーンが必ず強くなるという意味ではない、という点だ。

    今後への示唆

    ポロの事例は、本ブログがこれまでも取り上げてきたより大きな傾向に重なる。地球の気候「バイタルサイン」16指標中7つが観測史上最悪に――温暖化ペースも加速中という今年の報告では、地球の気候を示す16の指標のうち7つが2026年に観測史上最悪の値を記録し、温暖化のペースが頭打ちになるどころか加速していることが示された。ポロが本当に意味するところは、一つの嵐そのものよりも、その嵐が発達した「土台」にあるのかもしれない。エルニーニョは今後も独自の周期でやって来ては去り、時に温暖化した海洋と重なってとりわけ強い嵐を生むこともあるだろう。しかし長期的な温暖化の傾向はこの周期の間も途切れずに続くため、次のエルニーニョはその前よりわずかに温かい海を舞台にすることになる――それこそが今回の研究が明らかにしようとした仕組みだ。

    Xsciens編集部の読み解き

    この分析が示すのは、一つの嵐の原因を「エルニーニョか温暖化か」の二択で決めることではなく、短期の自然変動の上に長期の温暖化が積み上がっていくという構図です。

    • 似た数字を混同しない。本文には複数の倍率が出てきます。極端なポテンシャル強度の条件は温暖化で約23倍、エルニーニョで約14倍起きやすくなったという推定で、海水温の高さは温暖化で約100〜200倍起きやすくなったという別の推定です。対象の量が違うため、並べて単純比較はできません。
    • ポテンシャル強度は実際の風速ではない。嵐が理論上どこまで強くなりうるかの指標で、実際の風速への影響は温暖化で約秒速2.7メートルとされています。「エルニーニョより影響大」という本記事の見出しは、原題の「少なくともエルニーニョと同程度」より踏み込んだ表現です。推定値の幅は記事の範囲では確認できないため、ここでは温暖化の寄与が小さくなかったことを示す結果と受け止めるのが安全です。
    • 査読前の緊急分析。災害から数日以内に結果を出すことを優先した分析で、降雨量への影響は、気候モデルが地域の過去の傾向を再現できなかったため、結論を保留しています。

    この読み解きの参考: World Weather Attribution の分析、分析レポート全文(DOI)

    出典: World Weather Attribution、AP通信(KSAT掲載)、NASA Earth Observatory、原論文全文(インペリアル・カレッジ・ロンドン)

    関連記事:地球の気候「バイタルサイン」16指標中7つが観測史上最悪に / 海は本当はどれくらい温まっているのか / スイスの氷河、2026年に氷の5.5%が消失

  • 【科学】地球の気候「バイタルサイン」16指標中7つが観測史上最悪に――温暖化ペースも加速中

    【科学】地球の気候「バイタルサイン」16指標中7つが観測史上最悪に――温暖化ペースも加速中

    地球の気候の状態を示す16の指標のうち7つが、2026年に観測史上最悪の水準に達したとする報告書が発表された。海洋の熱量や海面水位、氷の減少などが対象だ。さらに見過ごせないのは、地球全体の気温上昇のペースそのものが、ここ数十年で急激に速まっているとみられる点だ。この加速が続けば、「何十年も先の話」とされてきた温暖化の節目が、今これを読んでいる世代のうちに訪れかねない。

    惑星を「健康診断」する

    今回の報告書「2026年版 気候の状態報告:課題と機会」は、2026年10月14日、査読付き学術誌『バイオサイエンス(BioScience)』に掲載された。米オレゴン州立大学のウィリアム・リプル特別教授と、陸域生態系研究協会(TERA)のクリストファー・ウルフ氏が中心となる、毎年恒例の報告シリーズの最新版だ。共著者には米ペンシルベニア大学のマイケル・マン氏や、ポツダム気候影響研究所のヨハン・ロックストローム氏らも名を連ねる。

    著者らは、地球の気候システムの変化を追うため、16の「惑星のバイタルサイン」を定点観測している。大気中の温室効果ガス濃度、地表の平均気温、海洋熱量(海面水温だけでなく深海まで含めた海水の総熱量)、海面水位、氷の減少量などだ。あわせて化石燃料の消費量や再生可能エネルギーの普及度合いといった、変化を引き起こす人間側の活動も追う。医師が血圧や脈拍を継続的に測るように、一つの劇的な出来事ではなく、一貫した指標を毎年積み重ねて見ていくのが狙いだ。

    過去最多の記録的異常値、加速する昇温ペース

    16の指標のうち7つ、全体の44%が観測史上最悪の水準にある。大気中の二酸化炭素濃度は2026年5月に428ppm(乾燥空気分子100万個中、二酸化炭素分子が約428個の計算)を超え、産業革命前よりおよそ50%高い水準に達した。メタンと一酸化二窒素も、2026年のここまでの平均値では記録的水準にあるというが、年半ばまでの暫定値だ。

    特に注目されているのが、気温上昇の「ペース」そのものの試算だ。著者らは地表気温の上昇ペースを、1880〜1970年で10年あたりおよそ0.05℃、1970〜2010年で同0.19℃、2010〜2024年で同0.36℃と見積もる。直近のペースは最初の区間のおよそ7倍だが、直近の区間はわずか14年間と短く、冒頭の90年間に比べエルニーニョなど短期変動の影響を受けやすい点には注意も要る。それでも3区間を通じ、速まっているという方向性自体は一貫している。このペースが続けば、産業革命前比の気温上昇は2050年より前に2℃を超えうると著者らは警告するが、これは観測傾向を延長した試算であり確定予測ではなく、自然変動や今後の政策対応で速くも遅くもなりうる。

    地球の地表気温の上昇ペースは、1970年以前の10年あたり約0.05℃から、2010年以降は10年あたり約0.36℃へ――およそ7倍に加速した。
    1880〜1970年、1970〜2010年、2010〜2024年の気温上昇ペース(10年あたり)を示す棒グラフ
    出典: Ripple et al., BioScience(2026年)「2026年版 気候の状態報告」のデータをもとに作成

    著者らは、いくつかの指標が加速的な傾向や急激な変化を示しており、これまでの緩やかな変化に比べ、今後を見通しにくくしかねないと述べている。

    海と氷が吸収する温暖化の代償

    増え続ける温室効果ガスの影響の多くは、大気中よりも海面下で進む。報告書によれば、海洋熱量と世界の海面水位はいずれも観測史上最高で、氷河の厚さとグリーンランドの氷床質量は観測史上最低だ。エネルギー関連の二酸化炭素排出量も、2025年に初めて410億トンを超えた。

    全体の傾向ははっきりしているが、科学者たちは海域ごとの熱吸収量をより正確に測る取り組みを続けている。今月発表された独ボン大学の研究は、衛星と海洋フロートのデータを組み合わせて推定し直した。インド洋の2005〜2015年では、新推定値が1平方メートルあたり0.58ワットだったのに対し、広く使われる気候再解析データセット「ORAS5」は同1.09ワットで、この海域・期間に限ればほぼ2倍の開きがあった。この研究はXsciensで以前に詳しく取り上げた。海洋が地球の余分な熱の大半を吸収しているという大枠を覆すものではないが、確立した指標でも手法の改良とともに見直され続けている一例だ。

    陸上で目に見える対応物が氷河だ。スイスの氷河観測ネットワークによれば、スイス国内の氷河は2026年に体積のおよそ5.5%を失い、2022年に次ぐ観測史上2番目の年間減少幅だったという。

    犠牲者の数字をどう読むか

    報告書は過去1年の一連の災害を取り上げ、異常気象の人的被害を具体的に示す。2025年10月にカリブ海を襲ったハリケーン「メリッサ」では95人が死亡し、120億ドル超の被害が出た。同年11月の暴風雨とインドネシアのモンスーン豪雨では合わせて708人が死亡。2026年6月の欧州の熱波には、統計的推計に基づく暫定値として、およそ1万4000人の「超過死亡」が関連づけられている。通常想定される水準を上回る死者数を統計モデルから算出した値で、個別に数えたものではなく今後修正されうる。

    著者らはこれらの出来事について「いずれも少なくとも部分的には気候変動に起因する」と記す。個々の災害が温暖化なしには絶対起きなかったと主張するのではなく、温暖化が発生確率や強度をある程度押し上げたとみる、意図的に限定した表現で、今日の気候での起きやすさを人為的温暖化がなかった世界と比較する「イベント・アトリビューション」の考え方とも整合する。

    個々の災害にとどまらず、著者らは気候の「ティッピングポイント(転換点)」のリスクの高まりにも言及する。超えると変化が自己強化的に進み、事実上元に戻せなくなる恐れのある閾値のことだ。例に挙がるのが、北大西洋の気温調節に関わる海流システム「大西洋南北熱塩循環(AMOC)」の弱まりと、温暖化と森林破壊が重なればわずか1.5〜1.9℃でも引き起こされかねないアマゾン熱帯雨林の大規模衰退リスクだ。いずれも注視すべきリスクの高まりであり、確定事態の予測ではない。

    エネルギーは希望と課題が同居

    内容は悲観一色ではない。低炭素エネルギー源は2025年、世界の電力の約43%をまかない、太陽光・風力の消費量も前年比およそ18%増えた。1世紀以上石炭が主役だった電力分野で、2025年には再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力その他)が初めて世界全体で石炭を上回った。太陽光・風力をより使いやすくする蓄電池の導入も急速に広がる。

    それでも著者らは、前進が必要な水準にまだ遠く及ばないと認める。世界の化石燃料消費量は2025年もなお0.9%増加した。エネルギー需要全体の伸びがクリーンエネルギーの拡大を上回っているためだ。適応策の資金面では差がさらに際立つ。2024年に発展途上国に渡った国際的な公的適応資金はおよそ640億ドルにとどまり、2035年までに必要な年間3100億〜3650億ドルには遠く及ばない。

    報告書が示す処方箋

    著者らは、温室効果ガスの迅速な削減と、適応・レジリエンス強化への投資を同時並行で進めるべきだと訴える。沿岸を守りつつ炭素も蓄えるマングローブ林・湿地の再生、異常気象への早期警戒システム、適応資金が地域の最前線コミュニティに届くようにする「気候正義」の重視を具体例に挙げ、政策の選択肢を比較する対話型ツール「En-ROADS」や「Drawdown Explorer」の活用も勧める。

    報告書は避けられない破局を予言しているわけではない。圧力が増し一部では加速しつつある気候システムの現状を記録しながら、政策と技術でなお軌道を変えられる領域を示す。2026年に調べた16のバイタルサインのうち7つが「危険信号」を示し、変化のペースは速まっている。今後数年の選択が、さらにいくつの指標が加わるかを左右する。

    Xsciens編集部の読み解き

    この報告書は「どの指標が悪化したか」の一覧であると同時に、悪化のペースと、それを変えうる政策・技術の現状を並べて示すものです。

    • 「7倍に加速」の読み方。気温上昇のペースは、1880〜1970年で10年あたり約0.05℃、1970〜2010年で約0.19℃、2010〜2024年で約0.36℃と見積もられています。最後の区間は14年間と短く、エルニーニョなどの短期変動の影響を受けやすいため、7倍という比較は目安です。ただし3区間を通じて速まる方向は一貫しています。
    • 観測値と推計・予測を区別する。7つの指標が観測史上最悪という点は観測にもとづく記述ですが、欧州の熱波に関連づけられた約1万4000人の超過死亡は統計モデルによる暫定の推計で、今後修正されえます。「2050年より前に2℃を超えうる」も、観測傾向を延ばした試算で確定予測ではありません。
    • 悲観一色の報告ではない。2025年には再生可能エネルギーが世界の電力で初めて石炭を上回り、低炭素エネルギーは電力の約43%をまかないました。一方で化石燃料の消費量は0.9%増え、発展途上国への適応資金も必要額に遠く及ばないと、同じ報告書が指摘しています。

    この読み解きの参考: 米国生物科学研究所(AIBS)/ EurekAlert、報告書(BioScience)

    出典: 米国生物科学研究所(AIBS) / EurekAlert、Ripple et al.「2026年版 気候の状態報告」BioScience誌(2026年)、ボン大学プレスリリース、GPB/NPR(スイス氷河の減少について)

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  • 【科学】海は本当はどれくらい温まっているのか――広く使われる気候推定値との大きなズレ、そして海域をまたいで移動する「熱の偏り」を新手法が発見

    【科学】海は本当はどれくらい温まっているのか――広く使われる気候推定値との大きなズレ、そして海域をまたいで移動する「熱の偏り」を新手法が発見

    • 人間の活動で生じた余分な熱のほとんどは海に吸収されており、その量を正確に測れるかどうかが、気候変動の警告や海面上昇の予測の信頼性を左右する。
    • ドイツの研究チームは、海に浮かぶ観測フロートと2種類の人工衛星のデータを組み合わせ、これまでコンピューター上で再現してきた数値を、実際の観測データで補正する新しい手法を開発した。
    • 過去20年のうち、ある時期については、よく使われている再現値が新手法による推定値よりもかなり高く、ほぼ2倍に達する開きがあった。
    • 熱の吸収は海域によって偏っており、2005〜2015年はインド洋が突出して多かったが、その後は太平洋・インド洋・大西洋によりバランスよく分散するようになった。

    海の「熱の収支」が重要な理由

    地球は今、太陽から受け取る熱の量が宇宙へ放出する熱の量を上回っている。主な原因は、温室効果ガスが地表付近に余分なエネルギーを閉じ込めていることだ。今回の研究によれば、その余分な熱のおよそ9割は大気や陸地ではなく海に吸収されており、これが大気や地表の昇温ペースを抑えている。

    科学者はここで、似て非なる2つの数値を区別する。海にすでに蓄えられた熱の総量を示す「海洋熱量」と、海が熱を新たに吸収する速さを示す「海洋熱吸収量」(単位は海面1平方メートルあたりのワット数)だ。今回扱うのは主に後者で、海域ごとの違いである。海水は温まるとわずかに膨張する「熱膨張」を起こし、これが世界の海面上昇の大きな要因のひとつになっている。

    海がどれくらいの速さで、どこで熱を吸収しているかを正確に示すのは意外なほど難しい。ドイツ・ボン大学の研究チームは、2026年10月に学術誌「Earth System Science Data」に発表した論文で、この集計方法をより信頼できるものにしようと試みた。

    3つのデータを組み合わせ、推定値を補正する

    海をすくい上げて熱を直接測ることはできず、科学者は間接的な手がかりを組み合わせるしかない。ボン大学チームの新手法「GAAMR」(Grace, Altimetry and Argo Mode Rescaling)は、3つのデータ源――人工衛星による観測2種類(重力観測と高度計観測)と、海洋ロボットによるArgoフロート観測――を組み合わせる。

    1つ目は「Argoフロート」と呼ばれる数千台の漂流型ロボット観測機で、海の上層2キロメートルほどを沈んでは浮上し、水温と塩分を記録する(深海の分は他のデータで補う)。2つ目は人工衛星による「高度計(レーダー)観測」で、宇宙から海面の高さを測る。温まった海水は体積が増えるため、海面上昇の一部はこの膨張を映す。3つ目は「GRACE」という2機1組の重力観測衛星のデータで、氷床や氷河など地表付近の質量移動による重力場のわずかな変化をとらえ、質量の増減による海面変化と、海水自体の膨張による変化とを分けて見積もる手がかりになる。

    重要なのは、この手法が「モデルを一切使わない測定」ではない点だ。比較対象にも使う「ORAS5」という海洋再解析データ(海洋モデルに観測データを組み合わせた過去の海の再現値)から、まず海域ごとのおおまかな温まり方のパターンを描く。そのうえで、それを海全体に一律に当てはめるのではなく、衛星とフロートの実測データで海域ごとに調整し直す。この「海域ごとの再調整」が今回の工夫であり、月ごと・海域ごとの海洋熱吸収量を推定できるようにしている。

    GAAMR手法が組み合わせる3つのデータ源(Argoフロート、衛星高度計、GRACE重力観測)を示す概念図
    GAAMR手法は、Argoフロート・衛星高度計・GRACE重力観測という3つのデータ源を組み合わせ、海域ごとに推定値を補正する。

    新しい数値が示すもの

    海全体で合計すると、新手法の推定値は他の独立した推定値とおおむね一致する。2005〜2024年の世界平均の海洋熱吸収量は、海面1平方メートルあたり0.62ワットと算出された。これは、Argoフロートのみの推定値や、NASAの衛星「CERES」による地球のエネルギー収支の観測値とも近い水準だ。

    一方、大きく食い違うのが「ORAS5」との比較である。ORAS5は未来を予測する気候モデルではなく、海洋モデルと観測データを組み合わせた、過去の海を再現するための広く使われたデータセットだ。2005〜2024年のORAS5の推定は海面1平方メートルあたり約0.82ワットで、新しい研究の値よりおよそ3割高い。この差は、前半の2005〜2015年ではさらに大きくなる。

    2005年から2015年について、ORAS5による推定は海面1平方メートルあたり1.09ワットだった。これに対し、新しいGAAMR法による推定は0.58ワットで、ほぼ2倍の開きがある。

    2005〜2024年と2005〜2015年における、ORAS5とGAAMR手法の海洋熱吸収量(W/m²)を比較する棒グラフ

    2005〜2015年に限ると、ORAS5とGAAMR手法の推定値の差はほぼ2倍に達する。

    研究チームは、この結果を「気候モデル全般が海の温暖化を過大評価している証拠」とは位置づけていない。新手法の値自体は複数の独立した観測ベースの推定と広く一致しており、ズレが見られるのはあくまでORAS5という特定の再解析データとの比較だからだ。

    海域によって異なる「熱の偏り」

    新しい海域別の推定値は、世界全体の数値だけではわからないことも明らかにした。2005〜2024年の期間全体では、太平洋・インド洋・大西洋の3つの海が追加された熱の大部分を占め、太平洋がもっとも多く、僅差でインド洋、大西洋と続く。南大洋と北極海は、面積の広さに反して合わせても数パーセントしかない。

    2005〜2024年における、海域別の海洋熱吸収量の内訳を示す横棒グラフ(太平洋・インド洋・大西洋・南大洋・北極海・残差)

    太平洋・インド洋・大西洋の3つの海が、追加された熱の大部分を吸収している。

    ただし、この均衡は20年間を通して見た姿にすぎない。2005〜2015年に限ると、インド洋は自らが占める海の面積の割合に比べ、不釣り合いに多くの熱を吸収していた。研究チームが有力な要因のひとつに挙げるのは、太平洋の暖かい海水をインドネシアの島々の間からインド洋へ運ぶ「インドネシア通過流」の変化だ。この熱の輸送パターンが2018年ごろを境に変化し、赤道付近のインド洋から外へ運び出される熱が増えた可能性があるという。メカニズムを確定的に示す結果ではないが、この変化は、20年間の記録全体で海域間の偏りが均等になっていく傾向と時期的に重なっている。同じ地球温暖化の影響でも、陸上の出来事は目に見えやすい。今年、スイスアルプスの氷河で起きた観測史上2番目の規模の氷の減少もそのひとつだ。海が余分な熱を吸収しているのは、目に見えない水面下での出来事なのである。

    この数値の精度が重要な理由

    海洋の熱膨張は、1993〜2015年の世界の海面上昇のうち推定42%を占めると、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は報告している。海洋熱吸収量の推定が過大・過小であれば、海面上昇の予測に頼る沿岸の防災計画にも影響しかねない。ボン大学チームはまた、ゆっくり動く海の熱量は、1年の猛暑・冷夏で変動しやすい地表気温より安定した温暖化の指標になるとも主張する。

    この手法は将来を予測する道具ではなく、20年分の衛星・フロート記録から、すでに起きたことを復元するものだ。1990年代初め以前は観測記録が手薄なため、それより過去へさかのぼるのは難しいという。研究チームは今後、GRACEの後継衛星のデータも取り入れつつ記録を継続していく計画だ。

    Xsciens編集部の読み解き

    世界全体の合計では他の推定と一致しながら、海域別や時期別に見ると違いが現れる、という「全体と内訳の見え方の違い」がこの研究の核心です。

    • 似た言葉の取り違えに注意。「海洋熱量」は海に蓄えられた熱の総量、「海洋熱吸収量」は熱を取り込む速さです。この記事の数字(1平方メートルあたりのワット数)は後者で、2005〜2024年の世界平均は新手法で0.62、ORAS5で約0.82でした。
    • ズレの相手は特定のデータセット。2005〜2015年は、ORAS5の1.09に対し新手法は0.58でほぼ2倍の開きです。ただし比較対象はORAS5という再解析データで、気候モデル全般が海の温暖化を過大評価している証拠ではない、と記事も明記しています。新手法の値は、Argoフロートのみの推定やCERESの観測値とはおおむね近い水準でした。
    • 原因の説明は有力な仮説の段階。インド洋の偏りがインドネシア通過流の変化と関係する可能性は挙げられていますが、メカニズムを確定する結果ではありません。また、この手法が復元できるのは衛星・フロートの記録がある過去約20年に限られます。

    この読み解きの参考: Uebbing et al., Earth System Science Data(2026年。論文名は下の出典欄に記載)、ボン大学の発表(下の出典欄に記載)

    出典: ボン大学「How Much Are the World’s Oceans Warming?」、Uebbing et al.「Improving global and regional ocean heat content by consistently combining GRACE gravity, satellite altimetry, and Argo profile observations in a joint inversion framework」、Earth System Science Data誌、2026年

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    【科学】スイスの氷河、2026年に氷の5.5%が消失――5年で2割減、欧州の夏を支える「氷の貯金」が底を突き始めた

    スイスの氷河は、2025~2026年の観測年に氷の量のおよそ5.5%を失った。氷河観測網GLAMOSの記録のなかで、2022年に次ぐ観測史上2番目に大きな年間消失量だ。過去5年間では、氷のおよそ5分の1を失っている。このペースは過去のどの5年間と比べても2倍以上速い。変化はスイス国内だけの問題ではない。氷河からの融け水は、ローヌ川やライン川など下流の人々が飲み水や農業、発電に使う河川を支えており、とくに暑く乾いた夏にその役割は大きくなる。

    観測史上2番目の年――しかもその直前の5年が史上最悪だった

    今回の数字は、GLAMOS(スイス氷河モニタリングネットワーク)によるものだ。ETHチューリッヒと、フリブール大学、チューリッヒ大学が共同で運営し、毎年スイス国内23の氷河で詳しい質量収支の測定を行っている。2025~2026年版の年次報告書によると、氷河の平均的な「質量収支」はマイナス2.86メートル(水換算)だった。質量収支とは、積もった雪の量から融けた分を差し引き、氷河全体に広げた水の深さに換算して表す指標で、この値はGLAMOSの記録のなかで2番目に大きなマイナスだった。もっとも大きなマイナスは、2022年のマイナス3.13メートルだ。

    氷の体積に換算すると、2025~2026年の融解でスイスの氷河はおよそ5.5%の氷を失った。観測対象の23氷河のうち10で、水換算3メートルを超える減少が記録された。アラリン、クラリデン、アルプス最大のグロッサー・アレッチ、ローヌの4氷河は、それぞれの観測史上もっとも大きな年間消失を記録している。

    5年単位でみると状況はさらに厳しい。2021年以降の5年間で、スイスの氷河はその体積のおよそ20%を失い、このペースは過去のどの5年間と比べても2倍以上速いとGLAMOSは説明する。より長い期間でも同じ加速が確認でき、1990~2000年でおよそ10%、2000~2010年で14%、2010~2020年で17%、直近10年間の2016~2026年ではおよそ27%の氷を失った。

    スイスの氷河の10年ごとの消失量を示す棒グラフ。1990年代10%、2000年代14%、2010年代17%、2016~2026年は27%
    スイスの氷河が失った氷の量(10年ごと)。出典: GLAMOS / ETHチューリッヒ 年次報告書2025/26。

    なぜ今年はここまで悪化したのか

    2025~2026年が深刻化した背景には、2つの季節が重なっている。まず冬の積雪量が、4月末の時点で平年より25%ほど少なく、氷河は夏を迎える前から雪による保護層が薄い状態だった。続く4月~9月の「夏半期」は、GLAMOSを率いるETHチューリッヒのマティアス・フース教授によると、1864年に気象の全国統計が始まって以来、スイスでもっとも暑く乾燥した期間だったという。氷点の高度――大気中で気温がセ氏0度になる高さ――は76日間にわたって4000メートルを超え、平年の2倍以上でスイスの新記録となった。9月には、標高3500メートル付近でも雪がほとんど残っていなかった。

    冬に蓄えた雪による増加分を融解が上回り、それ以降は融けるたびに氷河の質量が減っていく日を、GLAMOSは「氷河消失の日」と呼ぶ。2026年のその日は6月29日で、GLAMOSの記録のなかで2番目に早く、最速だった2022年よりわずか3日遅いだけだった。2026年の消失量が2022年にわずかに届かなかった一因は、サハラ砂漠からの砂塵が少なかったことだ。砂塵が雪に積もると太陽光の反射率が下がり熱を吸収しやすくなるが、2022年に比べて2026年はその影響が小さく、雪はより多くの太陽光を反射できた。

    一部の氷河では、表面だけでなく内部からも崩れ始めている

    研究者たちは、通常の表面融解に加えてもうひとつの変化を指摘する。一部の氷河の末端部では、融けた水が氷の内部に浸み込んで空洞やトンネル状の水路をつくり、大きくなると氷が内側から崩れ落ちる。単に端から後退するのとは異なる壊れ方だ。フース教授は、数年前まで氷に覆われていた標高の高い場所――グロッサー・アレッチ氷河のコンコルディアプラッツ付近や、マッターホルン近くのフィンデル氷河周辺など――で、むき出しの岩とがれきだらけの地形を目にしたと語り、月面のような風景にたとえている。

    氷河がまるごと消えるケースもある。ヴァレー州のベラ・トラ氷河は、数十年にわたる観測の末、2026年に完全かつ恒久的に消滅したとみられる小規模氷河のひとつだ。GLAMOSの推計では、2016年から2023年の間だけでもスイスの小規模な氷河およそ100が消滅しており、2026年にも複数の小規模氷河が姿を消した。

    記録的な融け水の夏は、同時に警告でもある

    2026年7月から9月の間だけで、スイスの氷河からおよそ2兆2000億リットルの水が放出されたと推計されている。スイス全世帯が1年間に飲む水の量の4倍以上だ。

    2026年7月から9月にかけて、スイスの氷河からおよそ2兆2000億リットルの融け水が放出された。これは、スイス全世帯の年間の飲料水使用量の4倍以上にあたる。

    これだけ聞くと水が豊富にあるように感じられ、実際、短期的にはそうだった。暑く乾燥し水の需要が高まる夏に、この余分な水が河川を支えたからだ。

    しかし氷河学者たちは、この現象の意味をはっきりと指摘する。これは再生可能な供給源からの水ではなく、縮み続ける「貯金」から一度きり引き出しれた水だ。氷河は本来、もっとも水が必要とされる暑く乾燥した年に余分な水を放出し、雪が多い年にその「貯金」を積み増す緩衝材の役割を果たす。ただし積み増しは、積雪量が融解量を上回るときに限られ、近年はその条件が満たされないことが多い。氷の「貯金」が減るほど、将来の干ばつを和らげる力も弱まっていく。

    この変化はスイス国内にとどまらない。氷河の融け水はローヌ川やライン川をはじめとするアルプス地域の河川の夏の流量を支え、とくに暑く乾燥した時期にフランスやドイツなど下流の地域へ水を届けている。2026年の夏にこれほど豊富な融け水があったのは、それだけ多くの氷を「手放す」余地がまだ残っていたからだ。氷河がさらに小さく薄くなれば、次の暑い夏に放出できる水は少なくなり、小規模な氷河のなかには姿を消すものも出てくるだろう。

    長期データが示すもの

    GLAMOSの価値は、その観測期間の長さにある。数十年にわたる継続的な測定があるからこそ、研究者はたまたま悪い一年だったのか構造的な変化なのかを見分けられる。直近10年間(2016~2026年)の消失量は、それ以前のどの10年間よりもはるかに大きい。2026年の観測期間終了時点で、スイスの氷河に残る氷の体積はおよそ42.6立方キロメートル、氷河に覆われた面積は714平方キロメートルと推定され、2000年と比べて体積で30立方キロメートル以上、面積でおよそ3分の1の減少にあたる。

    研究者たちは、記録的な年であっても単独で今後を予測する根拠にはならないと注意を促す。雪の多い寒い冬が来れば、傾向が一時的に和らぐこともありうる。それでも、GLAMOSが記録してきた「10年ごとに悪化する」という長期パターンは、水資源の管理者や水力発電の事業者、アルプス地域の山岳コミュニティが将来の水供給をどう計画するかという問題に、ますます重くのしかかっている。

    出典: ETHチューリッヒ「Devastating year for Switzerland’s glaciers」、GLAMOS 年次報告書(2025/26年版)、PBS NewsHour / AP通信

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