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  • 【科学】脳は自ら学習回路を組み立てる?――MIT、AIと脳をつなぐ40年来の謎に新仮説

    【科学】脳は自ら学習回路を組み立てる?――MIT、AIと脳をつなぐ40年来の謎に新仮説

    脳とAI研究の間には、何十年も解けないままの食い違いがある。現在のAIの強さを支えるのは「バックプロパゲーション(誤差逆伝播法)」というアルゴリズムで、誤差の情報を出力側から入力側へ、層をまたいで正確に伝え返すことで学習を進める。ところがこれに対応する仕組みは、脳の中にはっきりとは見つかっていない。一方で、学習済みの人工ニューラルネットワークの内部活動と、生物の視覚系の活動パターンを比べると、興味深い類似が繰り返し報告されてきた。脳がバックプロパゲーションをそのまま行っているとは考えにくいのに、なぜ結果だけはそれによく似てくるのか――この問いに、マサチューセッツ工科大学(MIT)マクガバン脳研究所の新しい研究が、一つの答え方を示した。ランダムに結合しただけの「ニューロンもどき」の集まりに、生物学的にもっともらしい局所的な可塑性ルールだけを与えておくと、誰にも教わらずに、バックプロパゲーションに近い性能で学習できる回路へと自ら組み上がっていくというのだ。研究は2026年10月9日、米科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。

    原論文情報 / Original Paper
    原題(Title): How Biological Synapses Self-Assemble Gradient Learning
    著者(Authors): Qianli Liao, Liu Ziyin, Yulu Gan ほか
    掲載誌(Journal): Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)
    DOI: 10.1073/pnas.2606245123

    脳とAI、40年来のズレ

    現在の深層学習はほぼすべて、バックプロパゲーションという学習法の成功の上に成り立っている。ネットワークが予測を出し、正解との誤差を出力側から入力側へ層ごとに送り返しながら、誤りを減らす方向へ結合の重みを調整していく。この方法は驚くほどうまく機能するが、標準的な実装では、順方向と逆方向の結合のあいだに厳密な数学的対応関係が必要で、誤差の情報をネットワーク全体へ協調して伝える仕組みも要る。大脳皮質の回路がこれに相当する仕組みを備えているという確立された証拠は、今のところ見つかっていない。

    研究が進むにつれ、この謎はむしろ深まった。バックプロパゲーションで訓練したネットワークの内部活動と、生物の視覚系で記録された活動パターンを比べる研究では、偶然とは言えない類似が繰り返し報告されてきたからだ。脳がバックプロパゲーションを実行している証拠にはならないが、素朴な疑問が残る。脳が本当にそれをしていないなら、どんな局所的な仕組みがこれほど似た計算を生み出しているのか。

    ランダムな結合に、局所ルールだけ

    MITのチームは、Qianli Liao氏、Liu Ziyin氏、Yulu Gan氏が中心となり、Mark Harnett氏とTomaso Poggio氏がシニア著者として、Brian Cheung氏も加わって研究を進めた。バックプロパゲーションを「もっと生物学的にする」という従来の試みとは違い、あらかじめ回路を設計するのではなく、ほぼ何もない状態から出発した。多層に並んだ「ニューロンもどき」のユニットを、決まった配線図なしにランダムに結合させただけなのだ。

    このシステムが従うのは、シナプスの局所的な可塑性ルールで、一つのシナプスだけでなく周辺の活動に応じて結合が変化する「ヘテロシナプス可塑性」という仕組みも含まれる。これは「同時に発火した細胞同士の結合が強まる」というおなじみのヘブ則の、より具体的な親戚にあたる。重要なのは、これらのルールが必要とする情報が、それぞれのシナプス(神経細胞どうしの接合部)の近くだけで得られる、ローカルな情報に限られている点だ。どのユニットもネットワーク全体の状況を知る必要はなく、システム全体に向けた単一の誤差信号が放送されることもない。

    ランダムな結合が学習回路へと自己組織化する仕組みを示す図
    出典: MITマクガバン脳研究所 / PNAS(2026年)の報告をもとに作成

    自ら組み上がる「回路」

    局所ルールのもとで動かし続けると、ランダムに結合していたユニットは、ランダムなままではいられなくなる。活動が繰り返されるうちに、ネットワークの中に、研究チームが「自己組織化モチーフ」と呼ぶ、小さく繰り返し現れる配線パターンが育っていった。モデルの解析によれば、脳の「上行性(ボトムアップ)」経路と「下行性(トップダウン)」経路を結ぶ、4つのシナプスからなる特定のモチーフが浮かび上がるという。これは実際の脳組織ですでに確認されたパターンではなく、実験神経科学者がこれから探しにいける、具体的な構造上の予測だと位置づけられている。

    さらに興味深いのは、このモチーフたちがその後に何をするかだ。モチーフ同士がネットワークとしてさらに自己組織化し、その全体の振る舞いが、確率的勾配降下法――バックプロパゲーションを含む最適化手法の一群――を一般化したようなダイナミクスに近づいていく。しかもそれは、誰かが設計した統括アルゴリズムによってではなく、局所的な結合ルールの積み重ねだけで実現される。言い換えれば、このネットワークは訓練データから何かを学ぶ前に、まず自分自身が学ぶための「装置」を組み立てる必要があったのだ。

    ランダムな結合から出発しても、局所的なシナプス可塑性ルールだけで、組み合わさると勾配降下法に似た学習を実現する回路モチーフを組み立てるには十分だった。

    AIの学習法に匹敵する成績

    生物学的にもっともらしい回路というだけでは、実際に機能しなければ意味がない。そこで研究チームは、この自己組織化したネットワークに画像のパターン認識・分類のタスクを解かせた。MITの発表によれば、自己組織化した回路は、同じタスクでバックプロパゲーションを直接使った従来型ネットワークに匹敵する性能を示したという。ただし発表文には具体的な正答率やベンチマークの詳細はなく、それらを知るにはPNAS論文本体にあたる必要がある。この結果は「今回試したタスクでは自己組織化が目立った代償を伴わなかった」という証拠であり、深層学習全般でバックプロパゲーションに匹敵するという一般論として読むべきではない。

    それでも意味は大きい。生物学に着想を得たバックプロパゲーションの代替案は、これまで実際のタスクでは性能面で及ばないことが多かったからだ。ランダムな配線から自己組織化しながら、少なくとも今回のタスクで渡り合える回路の存在は、その差を一例に限ってではあるが縮めて見せた。

    脳で検証できる具体的な予測

    研究チームは、このネットワークが学習できるからといって、人間の脳が実際にこの方法で学習していると証明されたわけではない、と慎重に断っている。あくまで候補となる仕組みの一つであり、確定した答えではない。ただし計算論的神経科学の理論提案の多くとは違い、今回の研究には具体的で反証可能な予測が伴う。もし脳が本当にこれに近いことをしているなら、大脳皮質の回路には、上行性と下行性の経路を結ぶ、あの4シナプスのモチーフが存在するはずだ、というものだ。実験神経科学者は今、まさにそのような配線の痕跡を、実際の脳組織の中に探しにいくことができる。エレガントなシミュレーションを、検証可能な科学的仮説へと変える一歩だと言える。

    研究室の外への広がり

    予測が裏づけられれば、恩恵は両方向に広がりうる。神経科学にとっては、学習回路の存在が確認されれば、脳が生涯を通じてどう適応するかの手がかりとなり、学習や記憶に関わる不調の理解や、将来の脳とコンピュータをつなぐインターフェース設計にも生かせるかもしれない。ただしこれらはまだ実証された成果ではなく、今後の可能性にとどまる。

    AI研究にとっての教訓は、むしろ逆向きだ。現在のネットワークは、どの結合をどう学習させるかをエンジニアがあらかじめ設計する、トップダウンの発想でつくられている。ランダムな配線と局所的な可塑性ルールだけから学習機構を組み立てられるシステムは、データに触れながら自らを構成していく、別のアーキテクチャの可能性を示す。Liao氏らも、結果はその方向への最初の一歩に過ぎないと位置づけつつ、すでに組み上がったネットワークがどう学ぶかだけでなく、学習そのものをどう「あらかじめ組み込んでおける」かという新しい問いを残した。

    人工知能と生物の知能がどこで今もすれ違っているのかについては、人は何かを選んだ後、脳の中の「情報の並べ方」を組み替えていた――MITの発見、柔軟に学習するAI設計の参考にで紹介した、MITの別の研究も参考になる。意思決定の瞬間に脳が情報を並べ替えるという発見で、AI研究者が柔軟な学習のあり方を考え直すきっかけになっている。

    Xsciens編集部の読み解き

    脳とAIの学習の食い違いに対して、「回路を設計せず、ランダムな結合から自己組織化させる」という別の答え方を示したのが、この研究の特徴です。

    • シミュレーション上の結果であって、脳での確認ではない。ランダムに結合したユニットが局所ルールだけで学習回路を組み上げるのは、モデルの中での話です。人間の脳が実際にこの方法で学習しているとは、記事にあるとおり証明されていません。
    • 「匹敵する性能」は限られた条件の話。画像のパターン認識・分類のタスクで、バックプロパゲーションを直接使った従来型ネットワークに匹敵したとされますが、具体的な正答率はMITの発表文に示されていません。深層学習全般に当てはまる一般論としては読めません。
    • この研究の価値は、検証できる予測を出したこと。上行性と下行性の経路を結ぶ4シナプスのモチーフが実際の大脳皮質にあるかは、実験で調べられます。見つかれば仮説の支持に、見つからなければ修正の材料になります。

    この読み解きの参考: MIT News の解説、原論文(PNAS)

    出典: MIT News、Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)、arXivプレプリント

    あわせて読みたい: AIの学習の仕組みを基礎から知りたい方はバックプロパゲーションとは?3分でわかる仕組みと将来性をどうぞ。

  • 【科学】AIに10分頼ると「粘り強さ」が落ちる――バークレー大学の実験で判明

    【科学】AIに10分頼ると「粘り強さ」が落ちる――バークレー大学の実験で判明

    AIチャットボットに答えを出してもらうと、難しい問題もあっという間に解けたように感じる。しかしそのAIが手元からなくなった瞬間、話は変わってくる。カリフォルニア大学バークレー校などの研究チームが発表した実験で、AIアシスタントを使って問題を解いていた人は、AIが取り上げられた後に出された次の問題で、最初から自力で取り組んでいた人よりも成績が落ち込むことが分かった。その差は10〜15分程度AIの助けを借りて問題に取り組んだだけで現れ、合計1,222人が参加した3つの実験すべてで確認された。研究チームは、AIに答えを頼ることが、自力で問題を解く力や意欲そのものを損なう可能性があると指摘している。

    3つの実験、共通する結果

    研究チームは、バークレー校「人間に適合したAIセンター」のグレース・リウ氏とブライアン・クリスチャン氏を中心に、カーネギーメロン大学、MIT、オックスフォード大学、UCLAの研究者と共同で、計1,222人が参加する3つのランダム化比較試験を実施した。最初の実験では354人が、GPT-5搭載のChatGPTを使える条件と使えない条件に分かれて12問の分数問題に取り組み、その後、AI群を含む全員が残り3問を完全に自力で解いた。2つ目の実験は667人で同じ設計を繰り返し、3つ目の実験では201人が、数学の代わりにSAT形式の読解問題で同様の検証を行った。

    どの実験でも、序盤の結果は想像どおりだった。AIを使える間は、AIを使ったグループの方が自力のグループよりも速く、正確に問題を解いていた――有能なアシスタントがいれば当然の結果だろう。しかし物語の核心は後半にある。AIが取り上げられ、AIを使っていたグループも含め、全員が残りの問題を自力で解かなければならなくなってからだ。

    数字が示す結果

    AIが使えなくなった後、かつてAIを使っていたグループは、最初から自力だったグループに後れを取るようになった。この傾向は3つの実験すべてで一貫して見られた。最初の分数の実験では、元AIグループが残り3問のうち平均57%を正解したのに対し、AIなしグループは73%――統計的に有意な差だった(p<0.001)。同じ設計をより大規模に繰り返した2回目の実験では、差はやや縮まったものの依然として有意だった(71%対77%、p=0.02)。読解問題の実験では差が再び広がり、76%対89%となった(p=0.007)。

    AIが取り上げられた後の正答率を3つの実験で比較した棒グラフ
    出典: Liu, Christian, Dumbalska, Bakker & Dubey (arXiv:2604.04721)、UC Berkeley Newsのデータをもとに作成

    問題を完全に諦めてしまう割合にも、同様の傾向が見られた。最初の実験では、元AIグループの20%が問題を解こうともせず飛ばしたのに対し、AIなしグループは11%だった。大規模な2回目の実験ではこの差はやや弱まったが(10%対7%、統計的有意差なし)、読解問題の実験では再びはっきりと現れ、AIグループの8%が問題を飛ばしたのに対し、AIなしグループはわずか1%だった。参加者の自己申告にもとづきAI利用法を見ると、傾向はさらに鮮明になる(ランダム化ではなく自己選択による分析である点には注意)。答えをそのまま書き写していたと答えた人はその後の正答率が平均65%と最も低く、ヒント程度にしか使わなかったと答えた人は、AIを一切使わなかった人との間に有意な差が見られなかった。

    参加者はAIあり・なしの条件にランダムに割り振られ、2回目の実験の事前テストでも両グループの実力に有意な差はなかった――後の成績差が参加者の元々の実力差ではなく、AI条件そのものに起因することを裏付ける結果だ。さらに同じ実験では、AIを使える環境にいながらほとんど使わなかった人が約12%おり、その成績はAIを一切使えなかった人たちとほぼ同等だった。鍵を握るのは「AIが使えるかどうか」ではなく「どれだけ頼ったか」のようだ。

    「衝撃的な結果だが、ある意味で、私たちの多くが直感的に感じていた話を裏付けるものでもある」――ブライアン・クリスチャン氏(カリフォルニア大学バークレー校)

    何が原因と考えられるか

    研究チームは2つの仮説を示しているが、どちらが主な要因かを特定する設計にはなっていないと断っている。1つ目は「期待のズレ」だ。即座に答えが返ってくることに慣れてしまうと、自分の手で地道に問題に取り組むことが不釣り合いなほど遅く、面倒に感じられ、簡単に諦めてしまいやすくなるという考え方だ。2つ目は、研究者が「生産的な苦闘」と呼ぶものの喪失である。問題の難しさそのものは単なる障害物ではなく、人がその問題に必要なスキルを練習し、鍛えるための過程の一部だという考え方だ。この苦労を省略し続けると、本来鍛えられるはずだったスキルを練習する機会そのものが減ってしまうかもしれない、というわけだ。

    AIグループと対照グループの実験の流れと、研究チームが挙げた2つの仮説の模式図
    実験の流れと2つの仮説の模式図(研究の説明をもとに編集部が作図)。

    メカニズムは異なるが、当サイトが以前取り上げた別の研究も、関連する問いを投げかけている。ジョージタウン大学の研究チームは、AIが作成した要約が実際に起きた出来事についての人の記憶をゆがめてしまうことを発見した。こちらは問題解決ではなく記憶についての研究だが、頭を使う作業をAIに任せるたびに、便利さの裏で気づかないうちに正確さや能力を失っていく可能性があるという点で、今回の研究と共通する問題意識がある。

    「分数やSATの話ではない」

    クリスチャン氏は、この結果が心理学の実験室の外にどこまで広がる話なのかについて率直に語っている。研究発表に添えられたコメントで、同氏は「これは分数やSATの問題だけの話ではない。人間の知識や専門性そのものに起きていることだ」と述べた。さらに、広く使われているAIアシスタントについて「皮肉なことに、私たちを助けているようでいて、実はあまり役に立たない形で助けていることが多い」と指摘する。目の前のタスクの成績は押し上げる一方で、データが示す限り、次にAIがそばにない場面で必要となる「自力で物事をこなす力」を、少しずつ損なっている可能性があるというのだ。

    注意点もある。測定したのはAIが取り上げられた直後、数分以内の成績であり、数カ月、数年の時間軸でこの効果がどう変化するのかは分かっていない。さらに3つの実験はいずれも、オンラインの有償参加者による短時間・一回限りの課題であり、学生が学期を通してAIを使い続ける場合や、社会人が日常業務に組み込む場合とは状況が異なる点にも留意したい。

    AIとどう付き合うべきか

    この結果は、AIの助けを一切使うべきではないという話ではない。同じデータは、AIが使える間は短期的な成績を明らかに押し上げていたことも示しており、多くの実務的な場面では、速く正しい答えにたどり着くこと自体に価値がある。この1つの研究から得られる教訓として参考になりそうなのは、AIを「使うかどうか」ではなく「どう使うか」だ。参加者の自己申告ベースの分析では、最も成績が落ち込んだのはAIに完成した答えをそのまま出してもらっていた人たちで、ヒントや部分的な手がかりとしてAIを使っていた人たちは、AIを一切使わなかった人たちにかなり近い成績を保っていた。AIを「答えを出す自動販売機」としてではなく、解決への道筋を少しずつ示してくれる「家庭教師」のように使うことが、自分の問題解決力を保つうえでは無難な選択肢と言えそうだ。ただし、これは分数と読解問題という限られた場面での1つの研究であり、この教訓がどこまで当てはまるのかは今後の研究を待つ必要がある。

    Xsciens編集部の読み解き

    見出しの「10分」は、短時間の依存でも成績差が出た点を指しますが、それが能力の恒久的な低下を意味するかどうかは、この実験では分からない点に注意が必要です。

    • 差はランダム割り付けの部分だけが因果の根拠。AIの有無は参加者にランダムに割り当てられており、AIが使えなくなった後の正答率の差はこの条件の違いから来ています。3つの実験で差は16ポイント(57%と73%)、6ポイント(71%と77%)、13ポイント(76%と89%)と、大きさにばらつきがあります。
    • 「答えの書き写し」の結果は参考値。書き写したと答えた人の正答率が65%と最も低かったという分析は、自己申告にもとづく自己選択の比較で、ランダム化されていません。AIの使い方そのものが原因だとは言い切れません。
    • 測られたのは「直後」の短い課題。オンラインの有償参加者による一回限りの課題で、数か月から数年の影響や、日常業務での使い方の効果は分かっていません。
    • 編集部の想像(推測)――私たちは、AIが「答えを出す」だけでなく、あえてヒントだけ出して考える時間を残す使い方に変わっていけば、便利さと粘り強さを両立できるかもしれないと考えています。たとえば勉強や仕事で、行き詰まったときだけ次の一手の手がかりをくれる、といった形です。ただし、今回の実験は数分以内の成績を測ったもので、そうした使い方が長期的に効くかどうかは分かっていません。これは編集部の推測です。

    この読み解きの参考: UC Berkeley News、論文(arXiv:2604.04721)

    出典: UC Berkeley News、arXiv:2604.04721「AI Assistance Reduces Persistence and Hurts Independent Performance」

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  • 【科学】練習後に迷走神経を刺激すると、学んだ動きが「身につきやすく」なる――東北大学、脳の血液量リズムと長期学習との関連を発見

    【科学】練習後に迷走神経を刺激すると、学んだ動きが「身につきやすく」なる――東北大学、脳の血液量リズムと長期学習との関連を発見

    • 練習をした後に首の左側にある「迷走神経」に電気刺激を与えると、学んだ動きが数日後により上達しやすくなる可能性が、マウスの実験で見えてきました。
    • もし人でも似た効果が確認できれば、将来、運動の学習やリハビリテーションを助ける方法につながるかもしれません。
    • 東北大学の研究チームが迷走神経を刺激しながら脳の血液量を調べたところ、刺激の後に血液量が規則正しく増減を繰り返す「リズム」が生じることが分かりました。
    • 刺激後に生じたこの血液量のリズムが大きかったマウスほど、5日後の学習成績が高い傾向がありました。ただしこれはマウスでの実験結果であり、人でも同じ効果が得られるかどうかはまだ分かりません。

    迷走神経とは――脳と体をつなぐ主要な神経

    迷走神経とは、首から腹部までを通り、心臓や消化管、肺などの状態を脳に伝えている太い神経のことです。脳と内臓を双方向につなぐ主要な神経の一つで、普段は心拍や呼吸、消化の調子などの情報を脳に伝える働きが中心です。

    この神経を外から電気で刺激する治療法は「迷走神経刺激(VNS)」と呼ばれ、植込み型の装置を使って、薬で十分に発作を抑えられないてんかんの治療などに使われています。近年は、耳の一部を皮膚の上から刺激する「経皮的耳介迷走神経刺激」という、体を切らずに行える方法も研究されています(ただし今回のマウス実験で使われた方法とは異なります)。この刺激が脳の中で具体的に何を変えているのかは、まだよく分かっていませんでした。

    迷走神経刺激と脳血液量のリズムが長期学習に関わる仕組みのイメージ図
    迷走神経刺激と脳血液量のリズムが長期学習に関わる仕組み(イメージ図)。実際の構造を正確に描いたものではありません。

    マウスの実験:刺激は練習の「後」に行った

    東北大学大学院生命科学研究科の陳君宇さん、生駒陽子助教、松井広教授らの研究チームは、マウスの左頸部にある迷走神経に小さな電極を取り付け、電気刺激を与える実験を行いました。マウスには、目の前で左右に動く縦じまの模様を目で追いかける「水平視機性眼球運動(HOKR)」という課題を練習させました。この課題の上達には、脳の中でも「小脳」と呼ばれる部位が深く関わっていることが知られています。

    1日目には、1時間おきに15分間の練習を4回行いました。練習の直後に、刺激を受けるグループのマウスだけに20分間の迷走神経刺激を加えました。そして2日目と5日目に、改めて成績を調べました。

    その結果、1日目の練習中の上達ぐあいには、刺激を受けたマウスと受けなかったマウスで差がありませんでした。ところが2日目と5日目には、刺激を受けたマウスのほうが高い成績を示しました。つまり迷走神経刺激は、練習中の成績を直接高めたのではなく、練習後の過程を通じて、後日の学習成績を高めた可能性があると考えられます。

    マウス実験の流れ。刺激は練習の後に行われた
    実験の流れ。Chen et al., iScience (2026) および東北大学プレスリリースの内容をもとに作成。

    小脳まわりの血液量が、刺激のあとにリズムを刻んでいた

    研究チームは、光ファイバーを使った「ファイバーフォトメトリー」という方法で、小脳片葉という部位の周辺で、局所的な脳の血液量の変化を測定しました。すると、迷走神経を1回刺激するたびに、血液量がいったんわずかに減少し、少し遅れて増加するという、2段階の変化が起きていることが分かりました。これは血管の収縮と拡張に伴って血液量が変化したものと考えられます。

    刺激を繰り返すと、この血液量の増減が規則正しく繰り返される「リズム」が生まれていました。研究チームは、こうした血液量のリズム性変動が、脳の血流や代謝の環境を調節することに関係している可能性があると考えています。ただし、今回の研究では酸素やATP(エネルギー源となる物質)などを直接測定しておらず、血液量の変化が学習を助ける具体的な仕組みは、まだ明らかになっていません。

    長期的な学習には、神経細胞どうしのつながりが変化する「シナプス可塑性」など、さまざまな脳内の変化が関わっているとされ、そこにはエネルギーが必要です。血液量のリズムが脳への栄養補給に関係しているとすれば、こうした変化を助けている可能性がある、というのが研究チームの考え方です。

    刺激後に生じた血液量のリズム性変動が大きいマウスほど、5日後の学習成績が高かった

    血液量の「リズム」の大きさと、長期学習の関係

    特に注目すべきは、刺激の直後20分間に現れた血液量のリズムの大きさと、5日後の学習成績との関係です。リズムの振れ幅が大きかったマウスほど、5日後の成績が良いという、はっきりとした相関が見られました。ただし、これはあくまで相関関係であり、血液量の変化が学習を良くした「原因」であるとはまだ証明されていません。

    研究チームの松井教授は、「迷走神経刺激を練習のあとに行った点が重要です。これにより、脳が変化を受け入れやすい、いわば“隠れた好機の窓”が開くのかもしれません」と述べています。また筆頭著者の陳さんは、「私たちの脳は、自分で思っている以上に体から強い影響を受けているのかもしれません。血液量の動きを含む脳の代謝環境を調整することで、普段は眠っている力を引き出せる可能性があります」とコメントしています。

    まだ分からないこと、そして今後の期待

    今回の研究の結果だけからは、血液量のリズムが学習を良くする「原因」なのかどうかは分かりません。これを確かめるには、今後、血管や血液量の動きを人為的に操作しながら、学習への影響を直接調べる実験が必要になります。また、脳の中でエネルギー源となる物質そのものの変化は、今回は直接測定されていません。

    さらに、今回の実験はあくまでマウスを対象にしたものであり、しかも首の神経に電極を取り付けるという、体への負担が大きい侵襲的な方法で行われています。人に対しては、耳を介した負担の少ない刺激方法がすでに研究されていますが、今回のマウス実験と同じ効果が人でも得られるかどうかは、今回の結果だけでは判断できません。研究チームは、刺激を行うタイミングや強さを工夫することで、将来的に学習やリハビリテーションを助ける方法につながる可能性があるとしています。

    Xsciens編集部の読み解き

    この研究の価値は、刺激で学習が上がるかどうかだけでなく、脳の血液量のリズムという、測定できる手がかりを見つけた点にあります。

    • 相関と因果を分ける。刺激後の血液量のリズムが大きかったマウスほど5日後の成績が高い、というのは相関です。血液量の変化が学習を高めた原因かどうかは、血管や血液量を人為的に操作する実験が必要で、この研究では確かめられていません。酸素やATPも直接測定されていません。
    • 「いつ刺激したか」が要点。刺激は練習の後に行われ、1日目の練習中の成績に差はなく、2日目と5日目に差が現れました。刺激が練習中の成績を直接上げたのではなく、練習後の過程に作用した可能性を示す設計です。
    • 人への応用はまだ先。実験はマウスで、首の神経に電極を取り付ける侵襲的な方法でした。人向けに研究されている耳からの刺激は別の方法で、同じ効果が得られるかはこの結果からは判断できません。

    この読み解きの参考: 東北大学大学院生命科学研究科のプレスリリース、原論文(iScience, DOI)

    出典: 東北大学大学院生命科学研究科プレスリリース(2026年8月26日)、iScience誌掲載論文(Chen et al., オンライン掲載2026年8月25日)

    論文情報:Chen, J. U., Ikoma, Y., Matsui, K., “Vagal nerve stimulation induces vascular oscillations and enhances long-term learning”, iScience (2026), DOI: 10.1016/j.isci.2026.117413

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  • 【科学】人は何かを選んだ後、脳の中の「情報の並べ方」を組み替えていた――MITの発見、柔軟に学習するAI設計の参考に

    【科学】人は何かを選んだ後、脳の中の「情報の並べ方」を組み替えていた――MITの発見、柔軟に学習するAI設計の参考に

    転職先を選ぶ。買う商品を選ぶ。二つの選択肢から一つを選ぶとき、脳は単に「どちらの価値が高かったか」という情報を保持しているだけではない。MITの新しい研究によると、意思決定が成立すると、脳内では二つの選択肢を表す神経活動のパターンが再編成される。それまでは「最初に提示されたか、2番目に提示されたか」という順序で情報を整理していたが、選択後は「選ばれたか、選ばれなかったか」という基準に切り替わる。この発見は2026年9月、学術誌iScienceにオンライン掲載された。多数のニューロンの活動をまとめて解析することで、意思決定に伴って神経表現がどのように再編成されるかを示した研究だ。AIを使った実験ではないが、状況に応じて内部の表現を柔軟に更新するAIの設計を考える研究者にとって、参考になる事例と言える。

    なぜ「決める瞬間」を観察しようとしたのか

    前頭前野は、脳の前方に位置し、意思決定や作業記憶などに関わる領域だ。選択肢を比較し、意思決定を行ううえで中心的な役割を担うことは、以前からよく知られていた。この領域では、一つのニューロンが複数の情報に応じて活動を変える「混合選択性」という性質が知られている。ただ、はっきりしていないこともあった。ごく短い間に評価した二つの選択肢を、脳はどうやって混同せずに扱うのか。特に、一方を選び、もう一方を退けた後はどうなるのか。これを確かめるため、MITの大学院生リー・フイディ(Huidi Li)氏と、同大学ピッカウアー学習記憶研究所のアール・K・ミラー教授を中心とするチームが、答えを推測するのではなく、ニューロン一つ一つの活動を追跡することにした。チームには、ニコラオス・クリサンティディス氏、スコット・ブリンカット氏、ヨナス・ローゼ氏も加わった。研究成果はiScience誌に発表され、MITは9月22日付でこの研究を紹介した。

    数百個のニューロンで「決める瞬間」を観察する

    研究チームは、体重約13kgのオスと約9kgのメスのマカクザル2頭に、簡単な報酬ゲームを覚えさせた。まず画面上の4カ所のどこかに1つ目のターゲットとなる白い四角が一瞬表示され、続いて色のついた輪が現れて、その選択肢が1〜13滴のジュースに相当することを示す。同じ流れで、別の場所に2つ目のターゲットとその価値が示される。両方を見た後、サルは好きな方を見つめて選び、対応するジュースを受け取った。オスはより価値の高い選択肢を約98%の試行で選び、メスは約79%だった。この間、研究チームは、前頭前野のうち側面にあたる外側前頭前野から、オスで316個、メスで422個のニューロンの電気活動を、合計40回の記録セッションにわたって集めた。研究チームは、個々のニューロンを別々に見るのではなく、数百個のニューロンの活動をまとめて解析した。ニューロンそれぞれの活動を別々の軸として多次元の空間に表すと、集団としての活動は限られた方向・次元に沿って分布する。このような活動のまとまりを「神経部分空間(サブスペース)」と呼ぶ。二つの部分空間が互いにほぼ直角の関係にあるとき、それらは「ほぼ直交している」と表現される。

    2頭のマカクザルで記録したニューロン数と正答率を示す棒グラフ
    出典: Li et al., iScience (2026) のデータをもとに作成

    選ぶ前は「提示順」、選んだ後は「選択の結果」

    この見方で結果を見ると、情報の整理のされ方がはっきりと切り替わっていることが分かる。選択の前は、最初に提示された選択肢と2番目に提示された選択肢を表すサブスペースが、提示順を軸にほぼ分かれていた。サルが選んだ後は、様子が変わる。1番目に提示されたか2番目に提示されたかではなく、「選ばれた選択肢」と「選ばれなかった選択肢」という区別に沿って、表現が再編成されたのだ。選ばれた選択肢と選ばれなかった選択肢は、元の提示順とは関係なく、それぞれ別の、ほぼ直交するサブスペースへ移っていった。研究チームは、この再編成のおかげで、下流の脳領域が意思決定の結果を効率よく読み取れるのではないかと考えている。どの位置で提示されたかを気にせず、一貫した形式で情報を受け取れるからだ。

    「脳は情報をただ静的に保持しているわけではない」とリー氏は述べている。

    「選択」を固定的に担当するニューロンは存在しない

    もう一つ注目すべき結果は、この再編成が個々の細胞レベルでどう起きていたかだ。研究チームは、「選ばれた選択肢」や「選ばれなかった選択肢」だけを表す、固定された神経細胞の集団は見つけられなかった。その代わり、個々のニューロンは試行ごとに参加する集団を変えていた。その時の課題の内容に応じて、別の一時的な細胞集団に加わっていたのだ。この分野の研究者の間では、こうした柔軟で重なり合う符号化の仕組みは、限られた数のニューロンでより多くの情報の組み合わせを表現する一つの方法だと考えられている。ただし、今回の研究では、この柔軟性によって表現力がどれだけ増すのかを直接測ったわけではない。

    この発見が研究室の外に意味すること

    今回の研究は、AIシステムを対象にしたものではない。研究チームもAIを開発しようとしていたわけではなかった。それでも、この結果はAI研究者が関心を持つ問いにつながっている。AIの継続学習では、新しい情報を学習すると、それ以前に学習した情報の性能が低下してしまう「破局的忘却」が課題になることがある。今回の研究はこの問題を直接扱ったものではないが、課題の段階ごとに内部表現をその場で組み替えるという今回のような生物学的な仕組みは、状況に応じて内部表現を柔軟に再編成するAIの設計を考えるうえで、一つの参考材料になる可能性がある。さらに、今回の発見は、もっと身近な問いにも小さな答えを与えている。選択した後も、選ばれなかった選択肢は記録された活動から消えなかった。独自の、区別されたサブスペースに表現され続けていたのだ。MIT側の説明によれば、選ばなかった選択肢についての情報も保持されていることは、後から「どの選択がどの結果につながったか」を学習する際に役立つ可能性があるという。ただし、この学習の過程自体は、今回の実験で直接確かめられたわけではない。

    まだ分かっていないこと

    研究チームは、今回の研究の限界についても率直に認めている。実験に参加したのは2頭だけだ。課題も、はっきり異なる離散的な報酬額を持つ二つの選択肢から一つを選ぶという、単純で逐次的なものであり、現実の複雑な意思決定とは大きく異なる。価値が連続的に変化する場合や、選択肢が三つ以上ある場合、あるいは人間の意思決定そのものでも、同じような再編成が起きるのかは、まだ分かっていない。これは今後の研究が答えるべき問いだと、研究チームは述べている。マカクザルとヒトの前頭前野には、構造上の共通点が多い。そのため、こうしたサル研究は、ヒトの認知についての仮説を立てる際によく使われる。ただ、同じ再編成がヒトでも起きるかどうかを確かめるには、ヒトを対象にした別の研究が必要だ。また、今回はあくまで記録を中心とした研究だったことも忘れてはならない。神経の表現が意思決定とともに変化することを示しただけで、その再編成自体が選択という行動を引き起こしていると証明したわけではない。今後は、より多くの個体やより複雑な意思決定課題、さらにヒトを対象とした研究で同様の再編成が確認されるかが重要になる。

    いまのところ、この研究は、ほとんど哲学的にも聞こえる問いに、具体的で慎重な答えを示している。「何かを選んだ直後、頭の中では何が起きているのか」という問いだ。少なくとも、単純な課題に取り組む2頭のサルの、ある一つの脳領域では、脳は二つの選択肢の整理の仕方を、下した選択を軸にそっと組み替え直している。研究が示したのは、そういうことだ。

    出典: MIT News(マサチューセッツ工科大学)、iScience(Li et al., 2026)、EurekAlert!

    論文情報:Li, H., Chrysanthidis, N., Brincat, S., Rose, J., Miller, E. K., “Neural subspace reorganization reflects value-based decision-making”, iScience (2026)

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