- 人間の活動で生じた余分な熱のほとんどは海に吸収されており、その量を正確に測れるかどうかが、気候変動の警告や海面上昇の予測の信頼性を左右する。
- ドイツの研究チームは、海に浮かぶ観測フロートと2種類の人工衛星のデータを組み合わせ、これまでコンピューター上で再現してきた数値を、実際の観測データで補正する新しい手法を開発した。
- 過去20年のうち、ある時期については、よく使われている再現値が新手法による推定値よりもかなり高く、ほぼ2倍に達する開きがあった。
- 熱の吸収は海域によって偏っており、2005〜2015年はインド洋が突出して多かったが、その後は太平洋・インド洋・大西洋によりバランスよく分散するようになった。
海の「熱の収支」が重要な理由
地球は今、太陽から受け取る熱の量が宇宙へ放出する熱の量を上回っている。主な原因は、温室効果ガスが地表付近に余分なエネルギーを閉じ込めていることだ。今回の研究によれば、その余分な熱のおよそ9割は大気や陸地ではなく海に吸収されており、これが大気や地表の昇温ペースを抑えている。
科学者はここで、似て非なる2つの数値を区別する。海にすでに蓄えられた熱の総量を示す「海洋熱量」と、海が熱を新たに吸収する速さを示す「海洋熱吸収量」(単位は海面1平方メートルあたりのワット数)だ。今回扱うのは主に後者で、海域ごとの違いである。海水は温まるとわずかに膨張する「熱膨張」を起こし、これが世界の海面上昇の大きな要因のひとつになっている。
海がどれくらいの速さで、どこで熱を吸収しているかを正確に示すのは意外なほど難しい。ドイツ・ボン大学の研究チームは、2026年10月に学術誌「Earth System Science Data」に発表した論文で、この集計方法をより信頼できるものにしようと試みた。
3つのデータを組み合わせ、推定値を補正する
海をすくい上げて熱を直接測ることはできず、科学者は間接的な手がかりを組み合わせるしかない。ボン大学チームの新手法「GAAMR」(Grace, Altimetry and Argo Mode Rescaling)は、3つのデータ源――人工衛星による観測2種類(重力観測と高度計観測)と、海洋ロボットによるArgoフロート観測――を組み合わせる。
1つ目は「Argoフロート」と呼ばれる数千台の漂流型ロボット観測機で、海の上層2キロメートルほどを沈んでは浮上し、水温と塩分を記録する(深海の分は他のデータで補う)。2つ目は人工衛星による「高度計(レーダー)観測」で、宇宙から海面の高さを測る。温まった海水は体積が増えるため、海面上昇の一部はこの膨張を映す。3つ目は「GRACE」という2機1組の重力観測衛星のデータで、氷床や氷河など地表付近の質量移動による重力場のわずかな変化をとらえ、質量の増減による海面変化と、海水自体の膨張による変化とを分けて見積もる手がかりになる。
重要なのは、この手法が「モデルを一切使わない測定」ではない点だ。比較対象にも使う「ORAS5」という海洋再解析データ(海洋モデルに観測データを組み合わせた過去の海の再現値)から、まず海域ごとのおおまかな温まり方のパターンを描く。そのうえで、それを海全体に一律に当てはめるのではなく、衛星とフロートの実測データで海域ごとに調整し直す。この「海域ごとの再調整」が今回の工夫であり、月ごと・海域ごとの海洋熱吸収量を推定できるようにしている。

新しい数値が示すもの
海全体で合計すると、新手法の推定値は他の独立した推定値とおおむね一致する。2005〜2024年の世界平均の海洋熱吸収量は、海面1平方メートルあたり0.62ワットと算出された。これは、Argoフロートのみの推定値や、NASAの衛星「CERES」による地球のエネルギー収支の観測値とも近い水準だ。
一方、大きく食い違うのが「ORAS5」との比較である。ORAS5は未来を予測する気候モデルではなく、海洋モデルと観測データを組み合わせた、過去の海を再現するための広く使われたデータセットだ。2005〜2024年のORAS5の推定は海面1平方メートルあたり約0.82ワットで、新しい研究の値よりおよそ3割高い。この差は、前半の2005〜2015年ではさらに大きくなる。
2005年から2015年について、ORAS5による推定は海面1平方メートルあたり1.09ワットだった。これに対し、新しいGAAMR法による推定は0.58ワットで、ほぼ2倍の開きがある。
研究チームは、この結果を「気候モデル全般が海の温暖化を過大評価している証拠」とは位置づけていない。新手法の値自体は複数の独立した観測ベースの推定と広く一致しており、ズレが見られるのはあくまでORAS5という特定の再解析データとの比較だからだ。
海域によって異なる「熱の偏り」
新しい海域別の推定値は、世界全体の数値だけではわからないことも明らかにした。2005〜2024年の期間全体では、太平洋・インド洋・大西洋の3つの海が追加された熱の大部分を占め、太平洋がもっとも多く、僅差でインド洋、大西洋と続く。南大洋と北極海は、面積の広さに反して合わせても数パーセントしかない。
ただし、この均衡は20年間を通して見た姿にすぎない。2005〜2015年に限ると、インド洋は自らが占める海の面積の割合に比べ、不釣り合いに多くの熱を吸収していた。研究チームが有力な要因のひとつに挙げるのは、太平洋の暖かい海水をインドネシアの島々の間からインド洋へ運ぶ「インドネシア通過流」の変化だ。この熱の輸送パターンが2018年ごろを境に変化し、赤道付近のインド洋から外へ運び出される熱が増えた可能性があるという。メカニズムを確定的に示す結果ではないが、この変化は、20年間の記録全体で海域間の偏りが均等になっていく傾向と時期的に重なっている。同じ地球温暖化の影響でも、陸上の出来事は目に見えやすい。今年、スイスアルプスの氷河で起きた観測史上2番目の規模の氷の減少もそのひとつだ。海が余分な熱を吸収しているのは、目に見えない水面下での出来事なのである。
この数値の精度が重要な理由
海洋の熱膨張は、1993〜2015年の世界の海面上昇のうち推定42%を占めると、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は報告している。海洋熱吸収量の推定が過大・過小であれば、海面上昇の予測に頼る沿岸の防災計画にも影響しかねない。ボン大学チームはまた、ゆっくり動く海の熱量は、1年の猛暑・冷夏で変動しやすい地表気温より安定した温暖化の指標になるとも主張する。
この手法は将来を予測する道具ではなく、20年分の衛星・フロート記録から、すでに起きたことを復元するものだ。1990年代初め以前は観測記録が手薄なため、それより過去へさかのぼるのは難しいという。研究チームは今後、GRACEの後継衛星のデータも取り入れつつ記録を継続していく計画だ。
Xsciens編集部の読み解き
世界全体の合計では他の推定と一致しながら、海域別や時期別に見ると違いが現れる、という「全体と内訳の見え方の違い」がこの研究の核心です。
- 似た言葉の取り違えに注意。「海洋熱量」は海に蓄えられた熱の総量、「海洋熱吸収量」は熱を取り込む速さです。この記事の数字(1平方メートルあたりのワット数)は後者で、2005〜2024年の世界平均は新手法で0.62、ORAS5で約0.82でした。
- ズレの相手は特定のデータセット。2005〜2015年は、ORAS5の1.09に対し新手法は0.58でほぼ2倍の開きです。ただし比較対象はORAS5という再解析データで、気候モデル全般が海の温暖化を過大評価している証拠ではない、と記事も明記しています。新手法の値は、Argoフロートのみの推定やCERESの観測値とはおおむね近い水準でした。
- 原因の説明は有力な仮説の段階。インド洋の偏りがインドネシア通過流の変化と関係する可能性は挙げられていますが、メカニズムを確定する結果ではありません。また、この手法が復元できるのは衛星・フロートの記録がある過去約20年に限られます。
この読み解きの参考: Uebbing et al., Earth System Science Data(2026年。論文名は下の出典欄に記載)、ボン大学の発表(下の出典欄に記載)
出典: ボン大学「How Much Are the World’s Oceans Warming?」、Uebbing et al.「Improving global and regional ocean heat content by consistently combining GRACE gravity, satellite altimetry, and Argo profile observations in a joint inversion framework」、Earth System Science Data誌、2026年