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  • 【科学】地球の気候「バイタルサイン」16指標中7つが観測史上最悪に――温暖化ペースも加速中

    【科学】地球の気候「バイタルサイン」16指標中7つが観測史上最悪に――温暖化ペースも加速中

    地球の気候の状態を示す16の指標のうち7つが、2026年に観測史上最悪の水準に達したとする報告書が発表された。海洋の熱量や海面水位、氷の減少などが対象だ。さらに見過ごせないのは、地球全体の気温上昇のペースそのものが、ここ数十年で急激に速まっているとみられる点だ。この加速が続けば、「何十年も先の話」とされてきた温暖化の節目が、今これを読んでいる世代のうちに訪れかねない。

    惑星を「健康診断」する

    今回の報告書「2026年版 気候の状態報告:課題と機会」は、2026年10月14日、査読付き学術誌『バイオサイエンス(BioScience)』に掲載された。米オレゴン州立大学のウィリアム・リプル特別教授と、陸域生態系研究協会(TERA)のクリストファー・ウルフ氏が中心となる、毎年恒例の報告シリーズの最新版だ。共著者には米ペンシルベニア大学のマイケル・マン氏や、ポツダム気候影響研究所のヨハン・ロックストローム氏らも名を連ねる。

    著者らは、地球の気候システムの変化を追うため、16の「惑星のバイタルサイン」を定点観測している。大気中の温室効果ガス濃度、地表の平均気温、海洋熱量(海面水温だけでなく深海まで含めた海水の総熱量)、海面水位、氷の減少量などだ。あわせて化石燃料の消費量や再生可能エネルギーの普及度合いといった、変化を引き起こす人間側の活動も追う。医師が血圧や脈拍を継続的に測るように、一つの劇的な出来事ではなく、一貫した指標を毎年積み重ねて見ていくのが狙いだ。

    過去最多の記録的異常値、加速する昇温ペース

    16の指標のうち7つ、全体の44%が観測史上最悪の水準にある。大気中の二酸化炭素濃度は2026年5月に428ppm(乾燥空気分子100万個中、二酸化炭素分子が約428個の計算)を超え、産業革命前よりおよそ50%高い水準に達した。メタンと一酸化二窒素も、2026年のここまでの平均値では記録的水準にあるというが、年半ばまでの暫定値だ。

    特に注目されているのが、気温上昇の「ペース」そのものの試算だ。著者らは地表気温の上昇ペースを、1880〜1970年で10年あたりおよそ0.05℃、1970〜2010年で同0.19℃、2010〜2024年で同0.36℃と見積もる。直近のペースは最初の区間のおよそ7倍だが、直近の区間はわずか14年間と短く、冒頭の90年間に比べエルニーニョなど短期変動の影響を受けやすい点には注意も要る。それでも3区間を通じ、速まっているという方向性自体は一貫している。このペースが続けば、産業革命前比の気温上昇は2050年より前に2℃を超えうると著者らは警告するが、これは観測傾向を延長した試算であり確定予測ではなく、自然変動や今後の政策対応で速くも遅くもなりうる。

    地球の地表気温の上昇ペースは、1970年以前の10年あたり約0.05℃から、2010年以降は10年あたり約0.36℃へ――およそ7倍に加速した。
    1880〜1970年、1970〜2010年、2010〜2024年の気温上昇ペース(10年あたり)を示す棒グラフ
    出典: Ripple et al., BioScience(2026年)「2026年版 気候の状態報告」のデータをもとに作成

    著者らは、いくつかの指標が加速的な傾向や急激な変化を示しており、これまでの緩やかな変化に比べ、今後を見通しにくくしかねないと述べている。

    海と氷が吸収する温暖化の代償

    増え続ける温室効果ガスの影響の多くは、大気中よりも海面下で進む。報告書によれば、海洋熱量と世界の海面水位はいずれも観測史上最高で、氷河の厚さとグリーンランドの氷床質量は観測史上最低だ。エネルギー関連の二酸化炭素排出量も、2025年に初めて410億トンを超えた。

    全体の傾向ははっきりしているが、科学者たちは海域ごとの熱吸収量をより正確に測る取り組みを続けている。今月発表された独ボン大学の研究は、衛星と海洋フロートのデータを組み合わせて推定し直した。インド洋の2005〜2015年では、新推定値が1平方メートルあたり0.58ワットだったのに対し、広く使われる気候再解析データセット「ORAS5」は同1.09ワットで、この海域・期間に限ればほぼ2倍の開きがあった。この研究はXsciensで以前に詳しく取り上げた。海洋が地球の余分な熱の大半を吸収しているという大枠を覆すものではないが、確立した指標でも手法の改良とともに見直され続けている一例だ。

    陸上で目に見える対応物が氷河だ。スイスの氷河観測ネットワークによれば、スイス国内の氷河は2026年に体積のおよそ5.5%を失い、2022年に次ぐ観測史上2番目の年間減少幅だったという。

    犠牲者の数字をどう読むか

    報告書は過去1年の一連の災害を取り上げ、異常気象の人的被害を具体的に示す。2025年10月にカリブ海を襲ったハリケーン「メリッサ」では95人が死亡し、120億ドル超の被害が出た。同年11月の暴風雨とインドネシアのモンスーン豪雨では合わせて708人が死亡。2026年6月の欧州の熱波には、統計的推計に基づく暫定値として、およそ1万4000人の「超過死亡」が関連づけられている。通常想定される水準を上回る死者数を統計モデルから算出した値で、個別に数えたものではなく今後修正されうる。

    著者らはこれらの出来事について「いずれも少なくとも部分的には気候変動に起因する」と記す。個々の災害が温暖化なしには絶対起きなかったと主張するのではなく、温暖化が発生確率や強度をある程度押し上げたとみる、意図的に限定した表現で、今日の気候での起きやすさを人為的温暖化がなかった世界と比較する「イベント・アトリビューション」の考え方とも整合する。

    個々の災害にとどまらず、著者らは気候の「ティッピングポイント(転換点)」のリスクの高まりにも言及する。超えると変化が自己強化的に進み、事実上元に戻せなくなる恐れのある閾値のことだ。例に挙がるのが、北大西洋の気温調節に関わる海流システム「大西洋南北熱塩循環(AMOC)」の弱まりと、温暖化と森林破壊が重なればわずか1.5〜1.9℃でも引き起こされかねないアマゾン熱帯雨林の大規模衰退リスクだ。いずれも注視すべきリスクの高まりであり、確定事態の予測ではない。

    エネルギーは希望と課題が同居

    内容は悲観一色ではない。低炭素エネルギー源は2025年、世界の電力の約43%をまかない、太陽光・風力の消費量も前年比およそ18%増えた。1世紀以上石炭が主役だった電力分野で、2025年には再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力その他)が初めて世界全体で石炭を上回った。太陽光・風力をより使いやすくする蓄電池の導入も急速に広がる。

    それでも著者らは、前進が必要な水準にまだ遠く及ばないと認める。世界の化石燃料消費量は2025年もなお0.9%増加した。エネルギー需要全体の伸びがクリーンエネルギーの拡大を上回っているためだ。適応策の資金面では差がさらに際立つ。2024年に発展途上国に渡った国際的な公的適応資金はおよそ640億ドルにとどまり、2035年までに必要な年間3100億〜3650億ドルには遠く及ばない。

    報告書が示す処方箋

    著者らは、温室効果ガスの迅速な削減と、適応・レジリエンス強化への投資を同時並行で進めるべきだと訴える。沿岸を守りつつ炭素も蓄えるマングローブ林・湿地の再生、異常気象への早期警戒システム、適応資金が地域の最前線コミュニティに届くようにする「気候正義」の重視を具体例に挙げ、政策の選択肢を比較する対話型ツール「En-ROADS」や「Drawdown Explorer」の活用も勧める。

    報告書は避けられない破局を予言しているわけではない。圧力が増し一部では加速しつつある気候システムの現状を記録しながら、政策と技術でなお軌道を変えられる領域を示す。2026年に調べた16のバイタルサインのうち7つが「危険信号」を示し、変化のペースは速まっている。今後数年の選択が、さらにいくつの指標が加わるかを左右する。

    Xsciens編集部の読み解き

    この報告書は「どの指標が悪化したか」の一覧であると同時に、悪化のペースと、それを変えうる政策・技術の現状を並べて示すものです。

    • 「7倍に加速」の読み方。気温上昇のペースは、1880〜1970年で10年あたり約0.05℃、1970〜2010年で約0.19℃、2010〜2024年で約0.36℃と見積もられています。最後の区間は14年間と短く、エルニーニョなどの短期変動の影響を受けやすいため、7倍という比較は目安です。ただし3区間を通じて速まる方向は一貫しています。
    • 観測値と推計・予測を区別する。7つの指標が観測史上最悪という点は観測にもとづく記述ですが、欧州の熱波に関連づけられた約1万4000人の超過死亡は統計モデルによる暫定の推計で、今後修正されえます。「2050年より前に2℃を超えうる」も、観測傾向を延ばした試算で確定予測ではありません。
    • 悲観一色の報告ではない。2025年には再生可能エネルギーが世界の電力で初めて石炭を上回り、低炭素エネルギーは電力の約43%をまかないました。一方で化石燃料の消費量は0.9%増え、発展途上国への適応資金も必要額に遠く及ばないと、同じ報告書が指摘しています。

    この読み解きの参考: 米国生物科学研究所(AIBS)/ EurekAlert、報告書(BioScience)

    出典: 米国生物科学研究所(AIBS) / EurekAlert、Ripple et al.「2026年版 気候の状態報告」BioScience誌(2026年)、ボン大学プレスリリース、GPB/NPR(スイス氷河の減少について)

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  • 【科学】硫黄を使う新素材が太陽光で水素生成 ―― 高価な金属触媒を省き、安い水素へ一歩

    【科学】硫黄を使う新素材が太陽光で水素生成 ―― 高価な金属触媒を省き、安い水素へ一歩

    米オレゴン州立大学の化学者チームが、追加の高価な金属触媒を使わずに、太陽光と水から水素を作り出す新しい結晶素材を開発した。研究成果は米化学会誌『Journal of the American Chemical Society』に掲載された。価格や量産時期が示されたわけではないが、クリーンな水素の普及を阻む大きな壁のひとつ、「触媒が高コストすぎて量産に向かない」という問題に、具体的な糸口を示す成果だ。

    太陽光が水中の結晶に当たり、水素の泡が発生するイメージ図

    水素は燃料電池の中で電気を生み出し、主な副生成物は水だけであるため、バッテリーだけでは動かしにくい船舶や大型トラック、製鉄、化学プラントなどの燃料として近年注目されている。問題は、その水素をどう作るかだ。現在、世界の水素生産は化石燃料に大きく依存しており、主流は天然ガスを使う「水蒸気改質」という方法で、一部はアジアを中心に石炭をガス化する方法も使われている。オレゴン州立大学が示した数字によれば、この方法で作る水素は1キログラムあたり約1.5ドルと比較的安いが、製造過程で二酸化炭素を排出してしまい、水素に切り替える意味の多くを打ち消してしまう。

    再生可能エネルギーや太陽光で水を分解して作る、いわゆる「グリーン水素」は排出の問題を避けられるが、同じ試算で1キログラムあたり約5ドルと、3倍以上のコストがかかるとされる。これらはあくまで目安となる大まかな数字であり、実際のコストは電力価格や設備の規模、採用する技術によって変動する。それでもコスト差の一因は装置にある。一部の電解装置や光触媒システムは、反応を実用的な速度まで高めるために白金などの貴金属触媒に頼っており、こうした素材は決して安くない。

    硫黄が光を受け止め、金属だけに頼らない

    オレゴン州立大学の研究チームを率いるのは、同大学の材料探索研究室(MaD Lab)を率いる化学者キリアコス・スティリアヌ氏だ。チームは、金属イオンを有機分子でつないだ結晶性・多孔性の素材群である「金属有機構造体(MOF)」の一種、「BVR-19」と名付けた新素材を開発した。この素材は室温の水溶液中で自然に形成されるといい、研究チームは、高温や高圧を必要とする多くの素材に比べて製造エネルギーを抑えられる合成経路だとしている(ただし、それが最終的な製造コストにどうつながるかはまだ示されていない)。

    この素材で最も重要な構造上の特徴は、有機リンカー内部にある、2つの硫黄原子をつなぐ結合だ。光が当たると、この結合が一時的に切れ、反応性の高い硫黄種が短時間生じる。オレゴン州立大学の発表によれば、この硫黄を含む有機部分こそが光エネルギーを捉え、水素が最終的に生成される場所まで電子を運ぶ役割を担っており、金属中心だけにその仕事を任せているわけではないという。

    グレー水素とグリーン水素の製造コスト比較(1kgあたり、米ドル)
    出典: オレゴン州立大学の発表資料に基づくおおよその目安

    金属有機構造体は、過去20年ほどの間に化学分野で関心を集めてきた素材群だ。金属を変え、有機リンカーを変えるだけで、同じ基本骨格を保ったまま、細孔のサイズや表面積、化学的な振る舞いを大きく変えられるほど「調整しやすい」ためだ。この調整のしやすさこそが、研究チームがBVR-19の内部の仕組みを探る手がかりにもなった。

    追加の金属触媒を省く

    一般的に、光を使って水を分解し水素を作るには、光を吸収する素材だけでなく、反応を効率よく進めるために素材に組み込まれた別の金属共触媒(多くの場合は白金)が必要とされてきた。オレゴン州立大学の発表は、BVR-19についてはそうした追加の高価な金属触媒を必要としないとしている。硫黄を含む有機部分が、本来なら追加の触媒が担う光の捕捉や電子移動の大部分をすでに受け持っているためだ。

    ただし、これを「金属を一切使わない」と理解するのは正確ではない。BVR-19にも結晶構造の一部として金属中心が存在しており、研究チームはこの金属の種類を変えると素材の性能が明確に変わることを確認している。つまり金属がこの化学反応に無関係というわけではない。実際に変わったのは、白金のように別途後付けで素材に組み込む高価な金属触媒が不要になった、という、より限定的だが実用上は意味のある点だ。この違いを正しく捉えておくことは重要だろう。今回の革新は、追加の製造工程とそのコストを取り除いたことにあり、化学反応から金属そのものを取り除いたわけではない。

    一つの実験から設計指針へ

    なぜ一部のバージョンが他よりも優れた性能を示すのかを理解するため、研究チームはBVR-19の中心にある金属イオンだけを系統的に入れ替え、それ以外の構造はほぼそのままにして、それぞれの光照射下での性能を比較した。この横並びの比較によって、水素生成量の違いを素材の電子構造の変化と結びつけることができ、「どのバージョンがより優れているか」という経験的な順位付けにとどまらず、「なぜ優れているのか」という仕組みの説明にまでたどり着いた。

    「私たちの研究は、グリーン水素のコストを下げられる、より優れた素材を設計するための青写真を与えてくれます」とスティリアヌ氏は大学の発表の中で述べている。

    研究チームはこの成果について、完成された最適な触媒というより、今後の素材開発で試し、積み上げていくための設計原則だと位置づけている。

    反応の仕組みそのものを解明することで研究を前進させる例は他にも見られる。たとえば京都大学などの研究チームが解明した、モリブデン触媒によるアンモニア合成の仕組みも、比較的穏やかな条件下で空気中の窒素をアンモニアに変換できる理由を詳しく突き止めたものだ。いずれも新しい化学物質の発見ではなく、既存の触媒がなぜ働くのかを明確にした点で共通しており、こうした理解こそが試行錯誤ではなく狙いを定めた素材改良への足がかりになる。

    安くなった水素が開く可能性

    とはいえ、これで安価でほとんど触媒を必要としないグリーン水素がすぐに実現するわけではない。オレゴン州立大学の発表や査読付き論文が示しているのは、あくまで実験室レベルの素材と設計原則であり、実際の水素生成速度や効率、量産への道筋を示す数値は公表されていない。この素材はまだ、工業的な規模に近い条件では一切試されておらず、有望な結晶を実験室から実用的な光触媒反応装置へと発展させるには、通常、何年にもわたる耐久性試験や工学的な検討が必要になる。すべての段階をクリアできるとも限らない。

    今回の研究が示したのは、仕組みの理解という足がかりだ。硫黄を含む有機構造に光の吸収と電子移動の役割の一部を担わせることで、少なくともこの素材系においては、高価な追加の金属触媒への依存を減らせるという証拠と、どのような構造上の工夫が性能向上に役立つかを見極める手法が得られた。これが実際に水素のコスト低下につながるかどうかは、この研究だけでは分からない水素生成速度や、繰り返し使用したときの耐久性、素材を組み込む反応装置全体のコストなど、他の要素にかかっている。もしこの先の段階がうまく進めば、水素製造を一夜で作り変えるような話ではなく、個々の部品のコストを少しずつ削っていくこうした積み重ねこそが、エネルギー技術が時間をかけて安くなっていく典型的な道筋だ。そしてそれは、製鉄や海運、大型トラック輸送のように電化が難しい産業が、今使っている化石燃料由来の水素から、より低炭素な水素へと移行していく後押しにもなりうる。

    出典: Oregon State University、Journal of the American Chemical Society (DOI)、ScienceDaily、Interesting Engineering

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