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  • 【科学】森のトカゲは10年で耐熱性が約2℃上昇――逃げ場が適応を分ける

    【科学】森のトカゲは10年で耐熱性が約2℃上昇――逃げ場が適応を分ける

    カリブ海の森の奥にすむトカゲは、10年前より約2℃高い暑さに耐えられるようになっていました。一方、涼しい場所へ移動できる種はほとんど変化していません。イェール大学を中心とする研究チームがPNASで報告したこの対比は、生息環境と、行動で体温を調節できるかどうかが、温暖化の中で耐熱性が変わる速さに影響しうることを示唆しています。

    原論文情報 / Original Paper
    原題(Title): “Thermal ecology drives alternate responses to rising temperatures in Caribbean anoles”
    著者(Authors): Saúl F. Domínguez-Guerrero ほか
    掲載誌(Journal): Proceedings of the National Academy of Sciences(2026)
    DOI: 10.1073/pnas.2537152123

    研究チームが見つけたこと

    イェール大学のサウル・ドミンゲス=ゲレロ氏とマーサ・ムニョス氏らは、カリブ海に生息する樹上性の小型トカゲ「アノール」16種について、極端な暑さへの強さを比べました。対象はイスパニョーラ島、ジャマイカ、プエルトリコの3島にすむ種です。

    チームは「進化の現場」を捉えようとしたわけではありません。行動が生理的な性質の進化にどう関わるかを調べるプロジェクトの途中で、見慣れた結果が出ると予想していました。ところが帰国後のデータは予想外の姿を示し、「何か変だ」という一言が論文につながったといいます。

    中心になる指標は「臨界高温限界(CTmax)」です。おおまかには、実験で定義された機能障害の段階に達する前に動物が耐えられる最高の体温を指します。動物が死ぬ温度を予測する値ではなく、実験で測る目安です。同じ島の同じ種グループについては、2011〜2013年に先行チームが測定していました。イェール大のチームが2022〜2025年に同じ測定をやり直し、約10年の前後比較が可能になりました。

    種によって動きは違った

    意外だったのは、変化が一様ではなかったことです。開けた場所や林縁にすむ種は、耐熱性がほとんど変わっていませんでした。こうしたトカゲは日陰や涼しい止まり木へ移動し、体温を適切な範囲に保てます。この方法を「行動による体温調節」と呼びます。

    一方、閉じた林冠の下の奥深い森にすむ種は違いました。暑さを逃れる手段がずっと少なく、10年で耐熱性が約2℃上がっていたのです。研究者によれば、熱的生態(環境で利用できる温度の中を動物がどう動くか)は、系統の近さや地理的な近さよりも、こうした変化をよく予測しました。

    棒グラフ:閉じた森林のアノールは約10年で耐熱性が約2度上昇し、開けた場所の種は変化が小さい
    図1. 約10年での耐熱性の変化。報告値は約2 °Cのみで、もう一方の棒は模式的な高さです。出典: Yale大学の発表(Domínguez-Guerrero他, PNAS 2026)をもとに作成。

    生息環境が重要な理由

    涼しい場所へ移動できる動物は、極端な暑さにさらされにくく、体そのものがより暑さに強くなる圧力が弱まりえます。逆に涼しい場所が少ない、あるいは行きにくい場合は、過熱を避ける手段が限られ、生理的な変化への圧力が強まる可能性があります。研究者の言葉では、行動は動物が環境変化にどう応えるかだけでなく、どれだけ速く進化するかまで左右しうるのです。

    模式図:開けた場所では行動で暑さを避け、閉じた森林では熱が体にかかり耐熱性が上がった
    図2. 二つの経路を示した概念図(実測データではありません)。出典: Yale大学の発表をもとに作成。

    行動は「緩衝材」であり「ブレーキ」

    この考え方には先行研究があります。2003年にThe American Naturalistに載ったレイモンド・ヒューイらの論文は、体温調節の行動が体温生理の変化への選択圧を弱めうることを示し、この効果を「ボガート効果」と呼びました。2014年にジェニファー・サンデイ氏らがPNASで発表した、変温動物296種の研究では、耐熱限界は緯度や標高が違っても似通っていること、熱帯の種ほど日陰探しなどの行動に頼ること、耐熱性に余裕のある種は少ないことが報告されています。

    こうした背景の中で、今回の研究は、行動で体温を調節できる機会が異なる近縁のトカゲについて、10年間の前後比較を加えました。

    チームは、高い耐熱性が子に受け継がれるかも調べるため、トカゲの子世代で試験をしています。ただしイェール大の発表にはその結果の詳細がなく、答えは論文本体で確認する必要があります。研究者によると、追跡の観察としてメキシコのトカゲでも似た傾向が見られ、温度が安定した池にすむカエルのオタマジャクシでも耐熱性が上がっているようです。これらは簡単に触れられただけです。

    逃げ道にはならない

    筆頭著者のドミンゲス=ゲレロ氏は、行動による対応にも生理的な対応にも限界があると注意を促します。「トカゲは追いつこうと競走しているが、いずれ体がもう適応できない『進化の天井』に達するかもしれない」というのが彼の言葉です。ただし天井がどこにあるかは今回の研究で示されたわけではなく、研究者の警告にとどまります。

    一部の種で耐熱性が急速に上がったからといって、温暖化が爬虫類にとって無害になるわけではありません。種によって反応が異なり、うまく対応できる動物とそうでない動物がいることを示しています。

    Xsciens編集部の読み解き

    核心の一文:暑さから逃げられないトカゲは10年で耐熱性が約2℃上がり、涼しい隠れ場所のある種はほとんど変わらなかった。

    • 観測された事実と解釈の区別。測定されたのは、16種の上限耐熱性を2011〜2013年と2022〜2025年の2時点で比べた結果です。前後比較だけでは、遺伝的な進化と、個体が生きている間の柔軟な調整を区別できないため、「適応」と呼ぶのは研究者の解釈です。約2℃は閉じた森林の種全体についての数字で、すべての種ではありません。
    • 限界。追跡は連続観測ではなく2期間の比較で、対象は3島の16種です。他の動物にそのまま当てはまるとは限りません。本稿は大学の発表と報道を基にしており、論文本体は確認できなかったため、種ごとのサンプル数などの詳細は把握できていません。メキシコのトカゲとオタマジャクシの話は簡単な紹介にとどまっています。
    • 次に注目したい点。変化のうち遺伝する部分がどれだけあるか、他の地域や動物群でも同じ違いが出るか、生理的な限界に達するまでに耐熱性がどこまで上がるかです。2014年の296種の調査では、耐熱性に余裕のある種は少ないと報告されています。
    • 編集部から――森の木陰は、野生動物にとって技術的な解決策に負けない価値を持つのかもしれません。この傾向が裏づけられれば、涼しい逃げ場の少ない種を見つけ、その周りの日陰や茂み、涼しい場所を優先して守る判断に役立つ可能性があります(ただし、こうした対策の効果自体は今回の研究では検証されていません)。研究者自身が適応には上限があると警告しており、温暖化を軽く見てよい理由にはなりません。身近なところでも、庭先の木陰や水飲み場は、近くに暮らす小さな生き物の生息場所になります。

    この読み解きの参考: Huey, Hertz & Sinervo (2003), The American Naturalist, Sunday et al. (2014), PNAS

    出典: Yale News(イェール大学), Phys.org, PNAS(Domínguez-Guerrero他, 2026)

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