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  • 【科学】スイスの氷河、2026年に氷の5.5%が消失――5年で2割減、欧州の夏を支える「氷の貯金」が底を突き始めた

    【科学】スイスの氷河、2026年に氷の5.5%が消失――5年で2割減、欧州の夏を支える「氷の貯金」が底を突き始めた

    スイスの氷河は、2025~2026年の観測年に氷の量のおよそ5.5%を失った。氷河観測網GLAMOSの記録のなかで、2022年に次ぐ観測史上2番目に大きな年間消失量だ。過去5年間では、氷のおよそ5分の1を失っている。このペースは過去のどの5年間と比べても2倍以上速い。変化はスイス国内だけの問題ではない。氷河からの融け水は、ローヌ川やライン川など下流の人々が飲み水や農業、発電に使う河川を支えており、とくに暑く乾いた夏にその役割は大きくなる。

    観測史上2番目の年――しかもその直前の5年が史上最悪だった

    今回の数字は、GLAMOS(スイス氷河モニタリングネットワーク)によるものだ。ETHチューリッヒと、フリブール大学、チューリッヒ大学が共同で運営し、毎年スイス国内23の氷河で詳しい質量収支の測定を行っている。2025~2026年版の年次報告書によると、氷河の平均的な「質量収支」はマイナス2.86メートル(水換算)だった。質量収支とは、積もった雪の量から融けた分を差し引き、氷河全体に広げた水の深さに換算して表す指標で、この値はGLAMOSの記録のなかで2番目に大きなマイナスだった。もっとも大きなマイナスは、2022年のマイナス3.13メートルだ。

    氷の体積に換算すると、2025~2026年の融解でスイスの氷河はおよそ5.5%の氷を失った。観測対象の23氷河のうち10で、水換算3メートルを超える減少が記録された。アラリン、クラリデン、アルプス最大のグロッサー・アレッチ、ローヌの4氷河は、それぞれの観測史上もっとも大きな年間消失を記録している。

    5年単位でみると状況はさらに厳しい。2021年以降の5年間で、スイスの氷河はその体積のおよそ20%を失い、このペースは過去のどの5年間と比べても2倍以上速いとGLAMOSは説明する。より長い期間でも同じ加速が確認でき、1990~2000年でおよそ10%、2000~2010年で14%、2010~2020年で17%、直近10年間の2016~2026年ではおよそ27%の氷を失った。

    スイスの氷河の10年ごとの消失量を示す棒グラフ。1990年代10%、2000年代14%、2010年代17%、2016~2026年は27%
    スイスの氷河が失った氷の量(10年ごと)。出典: GLAMOS / ETHチューリッヒ 年次報告書2025/26。

    なぜ今年はここまで悪化したのか

    2025~2026年が深刻化した背景には、2つの季節が重なっている。まず冬の積雪量が、4月末の時点で平年より25%ほど少なく、氷河は夏を迎える前から雪による保護層が薄い状態だった。続く4月~9月の「夏半期」は、GLAMOSを率いるETHチューリッヒのマティアス・フース教授によると、1864年に気象の全国統計が始まって以来、スイスでもっとも暑く乾燥した期間だったという。氷点の高度――大気中で気温がセ氏0度になる高さ――は76日間にわたって4000メートルを超え、平年の2倍以上でスイスの新記録となった。9月には、標高3500メートル付近でも雪がほとんど残っていなかった。

    冬に蓄えた雪による増加分を融解が上回り、それ以降は融けるたびに氷河の質量が減っていく日を、GLAMOSは「氷河消失の日」と呼ぶ。2026年のその日は6月29日で、GLAMOSの記録のなかで2番目に早く、最速だった2022年よりわずか3日遅いだけだった。2026年の消失量が2022年にわずかに届かなかった一因は、サハラ砂漠からの砂塵が少なかったことだ。砂塵が雪に積もると太陽光の反射率が下がり熱を吸収しやすくなるが、2022年に比べて2026年はその影響が小さく、雪はより多くの太陽光を反射できた。

    一部の氷河では、表面だけでなく内部からも崩れ始めている

    研究者たちは、通常の表面融解に加えてもうひとつの変化を指摘する。一部の氷河の末端部では、融けた水が氷の内部に浸み込んで空洞やトンネル状の水路をつくり、大きくなると氷が内側から崩れ落ちる。単に端から後退するのとは異なる壊れ方だ。フース教授は、数年前まで氷に覆われていた標高の高い場所――グロッサー・アレッチ氷河のコンコルディアプラッツ付近や、マッターホルン近くのフィンデル氷河周辺など――で、むき出しの岩とがれきだらけの地形を目にしたと語り、月面のような風景にたとえている。

    氷河がまるごと消えるケースもある。ヴァレー州のベラ・トラ氷河は、数十年にわたる観測の末、2026年に完全かつ恒久的に消滅したとみられる小規模氷河のひとつだ。GLAMOSの推計では、2016年から2023年の間だけでもスイスの小規模な氷河およそ100が消滅しており、2026年にも複数の小規模氷河が姿を消した。

    記録的な融け水の夏は、同時に警告でもある

    2026年7月から9月の間だけで、スイスの氷河からおよそ2兆2000億リットルの水が放出されたと推計されている。スイス全世帯が1年間に飲む水の量の4倍以上だ。

    2026年7月から9月にかけて、スイスの氷河からおよそ2兆2000億リットルの融け水が放出された。これは、スイス全世帯の年間の飲料水使用量の4倍以上にあたる。

    これだけ聞くと水が豊富にあるように感じられ、実際、短期的にはそうだった。暑く乾燥し水の需要が高まる夏に、この余分な水が河川を支えたからだ。

    しかし氷河学者たちは、この現象の意味をはっきりと指摘する。これは再生可能な供給源からの水ではなく、縮み続ける「貯金」から一度きり引き出しれた水だ。氷河は本来、もっとも水が必要とされる暑く乾燥した年に余分な水を放出し、雪が多い年にその「貯金」を積み増す緩衝材の役割を果たす。ただし積み増しは、積雪量が融解量を上回るときに限られ、近年はその条件が満たされないことが多い。氷の「貯金」が減るほど、将来の干ばつを和らげる力も弱まっていく。

    この変化はスイス国内にとどまらない。氷河の融け水はローヌ川やライン川をはじめとするアルプス地域の河川の夏の流量を支え、とくに暑く乾燥した時期にフランスやドイツなど下流の地域へ水を届けている。2026年の夏にこれほど豊富な融け水があったのは、それだけ多くの氷を「手放す」余地がまだ残っていたからだ。氷河がさらに小さく薄くなれば、次の暑い夏に放出できる水は少なくなり、小規模な氷河のなかには姿を消すものも出てくるだろう。

    長期データが示すもの

    GLAMOSの価値は、その観測期間の長さにある。数十年にわたる継続的な測定があるからこそ、研究者はたまたま悪い一年だったのか構造的な変化なのかを見分けられる。直近10年間(2016~2026年)の消失量は、それ以前のどの10年間よりもはるかに大きい。2026年の観測期間終了時点で、スイスの氷河に残る氷の体積はおよそ42.6立方キロメートル、氷河に覆われた面積は714平方キロメートルと推定され、2000年と比べて体積で30立方キロメートル以上、面積でおよそ3分の1の減少にあたる。

    研究者たちは、記録的な年であっても単独で今後を予測する根拠にはならないと注意を促す。雪の多い寒い冬が来れば、傾向が一時的に和らぐこともありうる。それでも、GLAMOSが記録してきた「10年ごとに悪化する」という長期パターンは、水資源の管理者や水力発電の事業者、アルプス地域の山岳コミュニティが将来の水供給をどう計画するかという問題に、ますます重くのしかかっている。

    出典: ETHチューリッヒ「Devastating year for Switzerland’s glaciers」、GLAMOS 年次報告書(2025/26年版)、PBS NewsHour / AP通信

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