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  • 【経済】出生率に明確な「底」は見当たらない――新しい経済学研究が示す、日本の労働力減少への警鐘

    【経済】出生率に明確な「底」は見当たらない――新しい経済学研究が示す、日本の労働力減少への警鐘

    • 出生率が想定より低いまま長く続けば、将来の人口や労働力の予測も見直しが必要になるかもしれません。これは働く人・税金を払う人・年金を支える人の数にも関わる話です。
    • 経済学者たちは、世界70年以上分の出生率データに加え、日本・米国・インドの地域別データを詳しく調べました。
    • 調べたすべての範囲で――日本の47都道府県すべてを含めて――出生率が安定して下げ止まる「底」を示す明確な証拠は見つかりませんでした。
    • これはあくまで過去のデータに見られた傾向です。研究者自身も「今のところの証拠はこうだ」という話だと強調しています。

    あらゆる人口予測の裏にある、ひとつの前提

    国際機関や政府機関が作る長期的な人口予測には、ひとつの前提が置かれることがあります。出生率がとても低くなった国でも、いずれは下げ止まり、「人口置換水準」――人口を長期的に保つために必要な水準で、今日の死亡率ではだいたい女性1人あたり2.1人前後――の近くで安定する、という前提です。

    この前提を実際のデータで検証した研究があります。経済学者のダイアン・コフィー氏、マイケル・ゲルーソ氏、ディーン・スピアーズ氏、サンギタ・ヴィヤス氏は、全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパー「出生率は低い水準で安定するのか」で、出生率が低くなったあと本当にどこかで下げ止まるのか、それとも下がり続けるのかを検証しました。ゲルーソ氏とスピアーズ氏は、関連する分析を、米国経済学会のJournal of Economic Perspectives誌に別の論文としてまとめています(4人によるNBERの論文とは著者・タイトルが異なる、関連研究という位置づけです)。

    結論はこうです。過去のデータを見る限り、出生率の低下が確実に止まる、あるいは反転する水準は見つかりませんでした。これは世界全体でも、個別に調べた日本・米国・インドの3か国でも同じでした。

    日本・米国・インド、3か国に共通するパターン

    研究チームは、性質の異なる3種類のデータを使って同じ問いを検証しました。

    1つ目は「期間」の合計特殊出生率(TFR)です。ある年にさまざまな年齢の女性が産んだ子どもの数から計算する、いわば「その年のスナップショット」です。国連のデータをもとに、1950〜2023年のほぼすべての国について調べました。2つ目は「コホート」出生率で、ある年に生まれた女性たちが生涯で実際に何人産んだかを示す数字です。31か国、1935〜1975年生まれの女性のデータを使いました。3つ目は、日本の47都道府県、米国の各州、インドの351地区という地域データです。

    どの切り口でも、同じパターンが現れました。世界全体の出生率は、1950年の女性1人あたり約5人から、2023年には2人をわずかに超える水準まで下がりました。現在、世界人口のおよそ3分の2が、人口置換水準を下回る国に住んでいます。データに含まれる比較的低い出生率の範囲――女性1人あたりおよそ2.3人から1.3人まで――でも、その水準で出生率が安定することを示す明確なパターンは確認されませんでした。

    日本では、2015年時点の47都道府県の出生率の中央値は1.53でした。そこから5年後までの間に、47都道府県すべてで出生率がさらに下がっていました。例外は一つもありません。2015年時点でまだ比較的高かった県でも、すでに低かった県でも、同じように下がっていたのです。

    米国の州データでも同じ傾向が見られました。2010年以降、調べたどの出生率の水準から出発しても、その後の出生率は平均的に低下していました。インドでも、日本や米国より出生率は高いものの、分析対象となった351地区では、出発点の出生率の高低にかかわらず、その後の変化は一貫してマイナス方向でした。

    意外な結果――「人口置換水準」に近いほど下落は緩やかにならなかった

    直感に反する結果もありました。もし出生率が本当に人口置換水準の近くで自然に安定するなら、その水準に近い国ほど、すでに低い国より下落は緩やかになるはずです。「底」に近いほど傾斜はゆるやかになる、という発想です。

    しかし、「底に近づくほど下落が止まりやすい」というパターンは確認されませんでした。むしろ、分析上は逆の傾向が見られました。1950〜2023年の世界の国・年別データで見ると、出生率が1.95〜2.05――ほぼ人口置換水準――から出発した場合、その後は平均で年1.1%のペースで下がっていました。一方、すでに低い1.45〜1.55から出発した場合は、年0.6%とやや緩やかでした(出生率そのものが毎年1.1人減るという意味ではなく、その時点の出生率に対して何%変化したかを示した数字です)。ただし、これはあくまでデータ上の関係です。「人口置換水準に近いから出生率の低下が速くなる」と証明されたわけではありません。人口置換水準が、出生率が自然に戻っていく「落ち着きどころ」として働いているようには見えない、という点を示しているにとどまります。

    人口置換水準に近い出生率ほど、その後の下落率が大きかったことを示す棒グラフ
    出典: Coffey, Geruso, Spears, Vyas (NBER Working Paper No.35824, 2026) Figure 3をもとに作成

    なぜこれが重要なのか――学術的な話にとどまらない理由

    これは学問上の関心にとどまりません。年金制度や医療予算、住宅需要、労働力の将来予測はどれも「将来どれだけの働き手・納税者がいるか」という前提の上に成り立っています。そして、国際機関や政府機関による人口予測の中には、「出生率はいずれ下げ止まる」という前提を組み込んでいるものがあります。

    この研究自体は、日本の将来の労働力や年金財政を直接予測するものではありません。平均寿命や労働参加率、移民など他の要因も関わるからです。とはいえ、もし研究が示したパターンがこの先も続くなら、こうした仮定を置く将来予測については、低出生率が長く続く可能性も踏まえて、改めて検討する必要があるかもしれません。これは、すでに高齢化と労働力人口の減少に向き合っている国――日本を含めて――にとって、無視できない材料です。著者らは、標準的な人口予測は「確実な未来の予言」ではなく、「ある前提の上に立った、ひとつの仮想シナリオ」として読むべきだと述べています。

    研究チームはこう述べています。「体系的な出生率の反発、あるいは通常想定されるいずれの出生率水準においても、安定した均衡点が存在するという確かな証拠は見当たらない」

    この研究が示していないこと

    いくつか注意したい限界があります。まず、これは過去の統計的なパターンであり、自然法則ではありません。「これまで一般的にはこうだった」という話で、特定の地域で出生率が安定したり、再び上向いたりする可能性は残っています。次に、出産を後押しする政策によって、その年の「期間」出生率が上昇しても、それが女性の生涯の子どもの数の増加につながるとは限りません。最後に、出生率の低下と人口減少は同じではありません。出生率が人口置換水準を下回っても、人口や働き手がすぐに減るとは限りません。年齢構成や移民の影響で、しばらく増え続けることもあります。出生率低下の影響が人口に表れるまでには、何年もの時間差があるのです。

    出典: NBER Working Paper No. 35824 (Coffey, Geruso, Spears, Vyas, 2026)、Journal of Economic Perspectives, Vol. 40, No. 1 (Geruso & Spears, 2026)

    論文情報:Geruso, M. and Spears, D., “The Likelihood of Persistently Low Global Fertility”, Journal of Economic Perspectives 40(1), 3–26 (2026), DOI: 10.1257/jep.20251463

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